3Dプリンター活用で昆虫のサイボーグ化キットを開発ー理化学研究所
理化学研究所は、災害救助や環境モニタリングに活用できる「サイボーグ昆虫」の開発に成功した。環境データ取得用センサや昆虫への指示を可能とする刺激電極、無線通信機器、バッテリー、太陽電池を搭載しつつも、昆虫の動きを妨げないデザインの実現に3Dプリンターが活用されている。(イラスト:理化学研究所イラストプレスリリースより)
環境モニタリングのためのサイボーグ昆虫
災害時における被災者の捜索や環境センシングを目的とした小型ロボットは、既に実用段階にある。
一方で、生きた昆虫に環境センサや無線通信機を搭載して、代用しようとする研究も進められてきた。これをサイボーグ昆虫と呼ぶ。研究の中心となっているのは、理化学研究所(理研)だ。
2022年9月、理研は、環境データ取得用センサや昆虫への指示を可能とする刺激電極、無線通信機器と太陽電池やバッテリーを搭載したサイボーグ昆虫の開発成功を報告した。
駆動素子を既存の昆虫で代用することで、全体としてのサイズはロボットより小さく設計することができ、高い機動性を持つ。自身で充電できるため、昆虫の寿命が続く限り、周辺環境のセンシングが可能となる。
3Dプリンターで作製された柔らかなバックパック
今回の研究でポイントとなるのは、「昆虫の動きを妨げないこと」及び「汎用性の高い(昆虫の種類を選ばない)設計」だ。
これらの目的達成に3Dプリンターを含む微細造形技術が用いられた。
無線通信機器やバッテリー、電子回路の大部分はバックパックにまとめられ、昆虫の胸部付近に取り付けられる。このバックパック寸法を誤れば、昆虫の動きを阻害し、効率的な運用は叶わない。
ここに3Dプリンターが用いられている。
マダカスカルゴキブリの3Dモデルを基に設計された柱状のバックパックは、昆虫の胸部構造にフィットし、動きを阻害することなく、1カ月後でも維持されることが確認された。
昆虫の動きを妨げない飛び石構造の薄膜太陽電池
デバイスへの電力供給の要となる太陽電池の性能はその面積に比例し、他の素子のように小さく一か所にまとめることができない。そこで太陽電池は昆虫腹部の背側に配置されることとなった。
ただし、昆虫の腹部は伸縮し、単に張り付けただけではすぐに剥がれてしまう。
そこで、研究チームは非常に柔軟な有機薄膜太陽電池を蛇腹に折り曲げ、接着領域と非接着領域の飛び石構造を形成した(下図参照)。
昆虫の動作テストでは、太陽電池を貼付しない状態と貼付した状態で、段差状の障害を乗り越えるために要する時間がほぼ変わらないことを報告した。この結果は、今回作製した太陽電池の飛び石構造が昆虫の動作自由度を確保できたことを示す。
ハエに超小型カメラを取り付けるなどの研究は世界中で取り組まれているが、この研究で採用された「飛び石構造で超薄型の電子素子を取り付けるアプローチ」は、他の昆虫種にも適用可能。生物の生態を観察するなどの学術研究にも活躍が期待できるが、軍事行動の際の偵察などにも活用される可能性がある。
電子デバイスの固定以外にも、直接生体に電子回路を3Dプリントする研究も別途進んでいるため、生体と機械の融合がすすむ研究は着実に進んでいる。技術面では、SFが現実に追いつく未来が近づいているが、生命倫理など使いこなす側の準備も、そろそろ必要かもしれない。
Sharelabではこれまでにもバイオプリント系の記事を取り扱ってきた。こちらの記事もぜひ参照されたい。
https://news.sharelab.jp/3dp-news/tech/houston-bioprint-220902/
国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。