「アスペクト・三菱商事テクノス 共同セミナー in 名古屋」参加報告 AMによる量産の課題と解決策とは?
2024年10月22日(火)に株式会社アスペクトと、同社販売代理店である三菱商事テクノス株式会社が名古屋で共同開催した「アスペクト・三菱商事テクノス 共同セミナー in 名古屋」のディスカッションパネリストとしてシェアラボから丸岡が参加した。今回のセミナーでは、樹脂だけでなく金属も話題に含まれ、特にAMによる量産の課題と解決策が主題であった。それらへの関心の高さを反映してか、近隣、遠方からの多くの参加者で会場は満席となっていた。その内容の要点をお伝えする。(記事内写真はアスペクト提供)
株式会社アスペクトと 三菱商事テクノス株式会社 概要
株式会社アスペクト(本社東京)は1996年設立。樹脂粉末レーザーPBF装置開発・販売・保守、粉末樹脂材料開発・販売、AM装置を用いた受託造形サービス、AM技術の用途開発や共同研究開発を行う企業で、国内外に多くの装置ユーザーを有する。現在販売する樹脂粉末レーザーPBF装置製品シリーズはAM-E3(エーエムイーキュービック)で、ワークサイズや高温材料対応により4グレードで販売されている。
三菱商事テクノス株式会社(本社東京)は、金属加工機械を中心とした工場内各種設備機械/装置の単体及びシステム等を行う商社。AM関連はアスペクト樹脂AM装置、及びColibrium Additive社(旧GE Additive)の金属AM装置(金属3Dプリンター)販売のみでなく、AM関連装置・測定機器・開発商品販売、受託成形も行っている。
「アスペクト・三菱商事テクノス 共同セミナー in 名古屋」講演の要点
まず今回の機会を与えていただいたアスペクト、三菱商事テクノスの皆様と講演、参加をされ、貴重なお話を伺った皆様にこの場を借りて感謝の意をお伝えしたい。主な講演と要点を以下にお伝えする。
基調講演-1 『AMで自動車部品量産を目指す取り組み』
株式会社デンソー 先進プロセス研究部ADM研究室担当次長 寺 亮之介 氏
- AMは社会課題解決するものづくりとして捉え、物流レスなど将来のモビリティ部品生産の姿を目指している
- AM活用研究は27年の歩み 北米欧州拠点含めプロセスと品質保証技術開発体制を整えている
- 自動車の生産規模は日本の主要製造業の17%を占め重要。自動車部品としてのAMの品質には既に解がある
- 量産への課題 ①品質保証 ②経済合理性 ただし、航空機と自動車には生産規模、製品安全寿命設計、品質保証に違い
- 自動車製造は自工程完結。後工程に不良を流さない工程設計 生産の揺らぎをすべて抜き出すことが大事
- 既存方式のみでは工程管理が出来ない 必要な対象物のクライテリアを捕まえる品質保証技術が必須
- AM量産が成立する目標値 材料コスト 1/10以下 速度 100-1000倍
- デンソーの進め方 開発技術をオープン化して普及の循環を作る
- ターゲット ①補給品 AM量産技術の基礎固め ②革新製品 ③生産システム
- 補給品は原稿量産品と等価品質が条件 研究の結果AMでアルミダイカストとほぼ同等にできている
- 普及にはADC12代替材、標準化、車載品質の安心感が必要
- 今後は量産ならではの課題に直面 高速造形化 バッチサイズの拡大
- AMはモノづくりを進化させる必須アイテムである
- 日本は負けていると思うだけで終わっていませんか? 負けない、追い越す戦略が必要
- 難しいことにチャレンジしていますか? 80年代の半導体開発やドイツのアライアンスを見習う
- デンソーはAM普及に向けた活動、協力を惜しまない
基調講演-2『設計・製造プロセスを革新するAM技術』
三菱重工業株式会社 エグゼクティブアドバイザー 工学博士 機械学会フェロー 石出 孝 氏
- Formnext2023から金属AMの傾向 大型化 マルチマテリアル化 モバイル化
- センシング フリンジプロテクションによる多数層比較モニタ(Phaze3D)
- これからはユーザーのニーズドリブンで成長
- AM量産には設計から輸送まで一連のプロセス構築と管理が必要
- 三菱重工業ガスタービン事業部(高砂)にAMセンターを2024年9月30日開所
- 製品化しやすいのは熱交換器
- EMPシールド 電磁パネルシールド 空気は通す
- シェルラティス 曲面のラティス構造 衝撃吸収
- チャンバーフリーPBF 局所微細造形技術開発
- AMの長所として積層一層ずつ品質保証が出来る
- 普及発展にはAMデータベースの整備 AM設計支援システムの構築 スタークホルダーの連携がカギ
基調講演-3『樹脂AMの社会的インパクトと後処理の重要性』
株式会社YOKOITO 代表取締役 中島 佑太郎 氏
- YOKOITOはビジネス、イノベーションからAMを見ている
- HP社MJFプリンター国内販売の3社目のパートナー アスペクトとは後仕上げ処理装置のパートナー
- 個人のモノづくりに着目し2021年に樹脂AM専門のYAMを立ち上げ設計、プリント、仕上げまで提供
- 樹脂AMの社会的インパクトはBtoBよりコンシューマー領域で
- 社会的価値として オンデマンド生産 在庫レス 開発と生産の統合 ハードのソフト化 高付加価値 サステナビリティ
- 樹脂AM量産の事例 歯科矯正マウスピース カスタムパーツ アイ/フットウェア 家具什器 インテリア 義肢装具
- 市場に低コストで安定して投入するには 後処理技術が重要
- コンシューマー製品における国内事例として株式会社メイジエがゲーミング用オーダーメイドマウスを製造販売したがうまくいかなかった。理由はAMに対する顧客認知とのギャップ デザインにAMを活かしきれていない その反省を活かしてマウスに貼るカスタムアタッチメントパーツを開発 家電量販店でも販売中
- 多品種少量以外の樹脂AMを活かした製品概念 複雑性のメリットを活かす 樹脂AMのコスト グローバル展開を前提にする
- YAMの役割 AM普及に向けた戦略的パートナーシップ
パネルディスカッションテーマ:AIと3Dプリンターの親和性、AMの実用化への課題
ファシリテーター:株式会社アスペクト 間野 隆久 氏
パネラー:
株式会社アイシン 山本 英司 氏
八十島プロシード株式会社 村上 卓弥 氏
株式会社YOKOITO 中島 佑太郎 氏
イントリックス株式会社 丸岡 浩幸
- 川上の形状データを作る部分とプリント、川下の品質測定管理までデジタルデータを使う点で、AIはAMとの親和性は高い
- 現状のAMの課題の中で、人が工数をかけなければならないことの改善、省工数にAI活用を期待 例えば医療モデルを作る際のCTデータから3Dデータを作る作業、造形レシピ最適化、アームロボットプリンターの制御プログラム作成など
- 品質管理のプリント中の積層画像から欠陥原因を自動発見、複雑な現象から原因要因を特定するするなど、人間の能力を補うことで課題解決が早まる期待
まとめ
今年4月に開催された「アスペクトセミナーin東京」についてはシェアラボでもお伝えしたが、今回は印象として、より幅の広い参加者と内容であった。このことは、AMを売る側も買う側も、AM実用品製造に関心が大きく高まっていることと、それに伴い伝えたい、知りたい情報の範囲と深さが増えていることが背景にあると見られる。また売り手も使い手も、単純に樹脂か金属か、ソフトかハードか、造形か仕上げか、技術かビジネスか、など個別の一方通行な情報ではなく、AMプロセスに関わる様々な情報を面として伝え、売り手と買い手、また現場と経営が対話し、理解することの重要性に気づかれた方が増えているのではないだろうか。またAM実用品生産の課題は以前よりかなり明確になってきたことは明らかだが、同時に解決策の難しさも明らかになってきた。しかし難しいからこそ、日本の製造業が得意とする材料技術、工程設計、品質管理の分野で課題解決をすることが、世界においても日本の価値を高める道になるのではと、参加者との対話から気づくことが出来た良い機会であった。今後も来年にかけて多くのイベントが開催されるので、ぜひ積極的に参加し、幅広い方々と対話をしていただくことをお勧めする。
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設計者からAMソフトウエア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、AMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしていきます。