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「アスペクトセミナーin東京」参加報告 知っておくべき樹脂LPBF装置メーカー・材料メーカー・ユーザーの協働と進化とは?

2024年4月19日(金)に株式会社アスペクトが東京で開催した「アスペクトセミナーin 東京」にシェアラボから丸岡が参加した。まずこの機会を与えていただいた株式会社アスペクトの皆様と講演、参加をされ、貴重なお話を伺った皆様にこの場を借りて感謝の意をお伝えしたい。セミナーでは基調講演として「最終製品用途や活用事例など」について装置ユーザー2社からの導入や実用部品製造への開発および活用事例の紹介、樹脂粉末材料メーカー5社より新開発含む製品と用途例の紹介、アスペクトから樹脂粉末レーザーPBF(粉末床溶融結合法、以下LPBF)の改良技術開発や品質や作業効率改善、省人自動化のための自社製品の紹介があり、特に樹脂AMの活用および実用部品製造に関わる多くのことを知り学ぶ良い機会であった。(写真は全てアスペクト提供)

株式会社アスペクト概要

株式会社アスペクトは1996年設立で、樹脂粉末レーザーPBF装置開発・販売・保守、粉末樹脂材料開発・販売、AM装置を用いた受託造形サービス、AM技術の用途開発や共同研究開発を行う企業で、国内外に多くの装置ユーザーを有する(シェアラボ内企業データベースページはこちら)。現在樹脂粉末レーザーPBF装置製品シリーズ名は旧RaFaElからAM-E3(エーエムイーキュービック)となっており、ワークサイズや高温材料対応により4グレードで販売されている。

「アスペクトセミナーin東京」講演の要点

アスペクトセミナーはコロナ禍による中断後昨年再開され、都内会場に講演者含め30名以上参加、ほぼ満席であった。以下に講演の要点をお伝えする。

株式会社アスペクトの取締役、早野 洸揮 氏は開会挨拶で「AMの活用は40年たったが国内事例少ない。活用には装置と材料との組み合わせが大事。」と述べた。また同社取締役の須甲 信一 氏は「これまで試作領域活用が多かったが、最近は生産にも使われてきた。」と活用の進展があることを語った。

コニカミノルタにおけるAM生産適用事例

基調講演では、「コニカミノルタにおけるAM生産適用事例」と題して、コニカミノルタ株式会社 プロフェッショナルプリント事業本部 生産技術統括部 加工生産技術部の高木 信 氏が同社の取り組み事例を紹介した。

プロフェッショナルプリント事業本部では商業印刷、パッケージ、ラベル用など大型高速印刷機を開発製造、国内外で販売。月産製造台数は数台から数百台。製造業を取り巻く環境変化として多品種小ロット化、サステナビリティ対応、部品不足による集中生産リスクがあり、顧客要望変化として付加価値高い部品設計、低コスト単能機などへの対応としてAM実部品生産研究に本格的に取り組みはじめた。最初の装置導入時に描いていた活用ロードマップは、「とにかく部品量産までやり遂げる」で、そのためPBF装置を選択した。ただその時点では材料が実用部品に使えるかはわからなかった。2019年にアスペクト RaFaEl 300HTを導入。2020年は主に部品試作用途に使い、2021年に月産3台の印刷機の4部品生産に使用。使用粉末材料は難燃性が必要で、ナイロン系1種類に絞った。2022年には月産10台の印刷機の32部品生産まで発展。現在 RaFaEl 550HT追加導入し、さらなるAM量産化を目指している。

AM部品生産に至るまでの課題と解決策

課題解決策
設計知見不足部品機能向上と部品数削減の設計を研究
AM部品強度・精度不足強度補完設計 AM精度向上+2次加工技術向上
AM部品単価が高い1回の造形ワークエリア内部品充填率向上
大型部品の造形が出来ない分割、ヒンジやスライド組継、可動部一体化など設計で可能に
AM部品剛性不足ハニカムやラティス構造活用 軽量化や通気性にも効果

AM生産部品例として、用紙冷却エアフロー部品は従来冷却ファン3個、ダクト7品で構成されていたが、AMの形状自由度を活かしCAEで風量最適形状設計したことでファン1個、ダクト2個にできたことに加え、空気平均流速も向上。またAM生産におけるコスト削減例として、造形ワークエリア内部品充填率向上のため、元の立体形状から平板形状に変更したり、大型部品の内部空間に別の小部品を配置したりし、大幅なコスト削減を果たした。

また、AM生産開始当初、設計上の寸法公差を満たすための2次加工が必要であった29部品に対し、過剰な精度を求めた公差が多かったことがわかり、公差緩和で2次加工必要部品を8部品まで減らした。量産品質管理方法も確立し、3Dスキャナと接触式三次元測定機での寸法形状測定と、強度管理は造形ワークエリア4隅に引張試験片を同時造形、それらを試験検査し保証している。

今後はさらなるAM価値創出と技術構築、設計と生産技術ノウハウを両輪で構築することが重要で、社内展開の進め方は社内の一部部署で実証から社内小ロット製品へ展開。これを社内別事業へも展開したい。AM部品生産ができたポイントは、AM部品の基本性能は問題ないことが確認できたこと、品質保証方針を設定したこと、ターゲット事業と領域を明確にして協力体制を構築したこと。

AM活用のコツは設計とポストプロセス

続いて八十島プロシード株式会社の営業企画部 新領域開発室 村上 卓弥 氏より「AM活用のコツは設計とポストプロセス」と題して同社の取り組みが紹介された。

同社は樹脂切削受託加工に取り組む中、2011年にAM装置導入。神戸拠点にMEX(材料吐出法)やPBFの装置約30台、アスペクト社の装置はRaFaEl 300C-HTを2台、550C-HTを1台所有するなど国内でも本格的にAMに取り組むサービスビューロだ。試作だけでなく実用品製造も受託し、受注件数で70%は試作、部品や治工具含む実用品が30%となっている。

村上氏は「実用品製造のお客様はAMのウイークポイントを理解したうえで使っている」と語る。例えばPBF方式の装置はサポートレス造形可能だが、弱点として造形後粉末が取り除けないパウダー残りが発生するケースがある。八十島プロシードでは独自に洗浄を行うほか、残粉末をX線CTで検査したり、分割造形後溶接で対応しており、AM工法の特徴を理解した活用が重要になってくる。

AMの加工精度に関しては、0.6mm未満の寸法は再現できない、造形品内部に微小空洞あり肉厚や造形向きによっては流体が漏れる、などの課題にも触れた上で、寸法精度は造形品で±0.2mm、2次機械加工で±0.05mmとしている。仕上げ加工としてバレル研磨、切削加工、ケミカルエッチング、べーパースムージングなどにも対応している。

八十島プロシードはニーズの多い材料開発にも取り組んでいる。装置、材料メーカーと共同開発したPPSガラス繊維入り材料は、例としてモーターの試作絶縁部品に使われている。部品単体を加工するコストで見ると、大半のケースでは切削のほうが安い。しかしAMでは多数個同時造形などに取り組むことでコストダウンが可能だ。

PPSガラス繊維入り材料他 展示サンプル
PPSガラス繊維入り材料他 展示サンプル

まとめとして、AMの活用には弱い部分を理解して、「使えない」ではなく補っていくこと、お客様の要求を正しく理解することが重要だと言えるだろう。

樹脂粉末材料メーカー5社による講演

続いてアスペクトが材料メーカーと取り組み開発したAM材料に関して、材料メーカーから発表があった。

ダイキン工業株式会社

ダイキン工業株式会社は、新開発製品としてPBF用フッ素樹脂PFA粉体をアスペクトの3Dプリンター向けに提供している。PFAはPTFEに匹敵する材料で融点305℃、連続使用温度260℃、高耐薬品性、低温特性、吸水率=0.01%以下、難燃性=UL94 V-0、アイゾット衝撃試験で破断せず、と優れた物性を誇る。PTFEは粘度が高く溶融での成形が不可となっている。シリカなど流動向上剤を必要としないため、良好なリコート(粉末敷設)性を実現したということで、 現在用途を探しているということだ。

ポリプラスチックス株式会社

ポリプラスチックスはPBF用POM(ポリアセタール)粉末を紹介した。NFP-D50は結晶化度が速くPBFでの造形が難しいがポリマー変性技術で改善し製品化している。

POM材料 展示サンプル
POM材料 展示サンプル

東レ株式会社

東レは八十島プロシードと開発したPBF用粉末として「トレミルPPS」を展開している。融点は280℃と耐熱性が高く、非強化とガラス繊維配合の強化材料を展開している。耐熱性耐薬品性の高さ、金属代替部品などでの利用を想定している。熱硬化性樹脂の代替としての活用も見込んでいるという。
活用事例としては、EV用モーター部品の機能評価試作が紹介された。コスト面で1/10、納期面で1-2週間ということで、従来に比べて1/4と大きな成果につながったということだ。
「レパールPA6」という材料は、融点220℃、長期耐熱性、耐油性に優れ、独自粒子化技術で真球化や粒径調整可ということで、補給部品やモーター周辺部材で用途展開を図っていきたいということだ。活用事例として自動車のインテークマニフォルド試作が紹介された。ケミカルエッチングで表面粗度を5μmに仕上げることができたという。

アルケマ株式会社

フランスに本社を置く材料メーカーアルケマは京都テクニカルセンターでMEX用とPBF用材料開発に取り組んでいる。PBF粉末ではPA11材として「RILSAN」を展開。植物由来原料としてトウゴマ種子から精製されるひまし油を材料としており、同社のPA12材料より耐衝撃性に優れ、繰り返し耐屈曲疲労性試験ではPA12の4倍以上、伸び3倍、低吸水性を発揮するという。活用事例としては、COBRA社のゴルフ用品(アイアン・パターの部品)、ROEBELENII社のサングラスフレーム、SUNREEVE社のメガネフレーム(日本メガネ大賞テクノロジー部門を受賞)するなど豊富な実績がある。PA12材料としては「OGASOL」を展開。アルケマ独自の粉末製造プロセスで粒径分布狭く造形表面がスムースに仕上がるという。PA12はプロセスウインドウが広く、結晶化が早いPA11に比べてひずみが小さくリサイクル率も高いということだった。

ポリプラ・エボニック株式会社

ポリプラ・エボニックからはPBF用粉末「INFINAM」としてPA12/ TPC/TPAが展開されている。一般粉末のリサイクル率は70%程度ということだ。活用事例として、染色発色性の良いアクセサリーや自転車の機能性部品に活用されているという。

アスペクト技術動向説明アスペクト技術動向説明

技術進化が早いAM業界だが、PBF方式の老舗としてアスペクトも取り組みを続けてきた。株式会社アスペクト テクニカルセンター長 水谷 陽一 氏がここ数年のアスペクトの取り組みとして装置の造形品質改良のため大きく2つに力を入れてきた。

1.造形精度速度向上 生産設備として 寸法精度 ばらつき低減 再現性

ハード面としては、ガルバノミラー、リコーター、ヒーターと赤外線センサーの補正を行い精度改善を行った。
ソフトウエア面では、SEMwareからBe2wareに進化し、造形ひずみを AI用いて空間補整する取り組みを行っている。
またレーザーウインドウガラスの防曇対策やチェッカーフラッグ状の新レーザースキャンパターンに取り組むことで、フッ素やPPなど機械強度や弾性率の弱い反りやすい材料の造形品質向上に取り組んできた。

2.プリ/ポスト・プロセスの自動省人化

AM装置は自動化、省人化の観点でも改善を続けている。アスペクトでは、粉末供給搬送装置、装置内粉体自動レベリング、造形チャンバープリンター外冷却装置、自動ケーキブレイクアウト装置、自動ブラスト仕上げ装置 タンブラー回転で自動ブラストなどの実装・改善を行うことで前工程、後工程の省力化・自働化に取り組んできたということだ。

知っておくべき樹脂LPBF装置メーカー・材料メーカー・ユーザーの協働と進化

本セミナーを通し、日本でもこれまで長年試作用途を中心に活用されてきた樹脂LPBF装置と材料は、実使用部品生産に使うべく、装置メーカーだけでなく、国内外樹脂メーカーとユーザーも協働することで急速に造形性能やプリソフトウェア、ポストプロセス装置の開発改良が進み、かつ造形品の性能と形状寸法品質も向上することに加え、ばらつきや再現性含め管理する方法も出来てきており、関係各位の絶え間ない努力と協力の結果であると感じた。

また、今回学んだAMを実用部品生産に使うための重要なポイントを以下に挙げる

  • AM装置導入には部品の要求仕様や性能、コストだけでなく、社会や企業を取り巻く課題とAMをどのように解決に使うかも視点に「目指すゴール」を定め、それに適した装置を選択し、その形状寸法、材料特性やコスト構造を試作用途などから使いながら理解し、AM生産に適した部品を少数選定し、実証を進め、段階的に適用部品や適用製品を増やしていく。
  • 装置と材料に適した設計技術(一般にDfAMと呼ばれる)は、不足する性能を補う、部品数を減らす、CAEで使用時の性能向上ができる形状を目指すなどの観点に加え、コスト最小化も設計形状でできるという観点で蓄積する。
  • まず使用者、お客様の要求を正しく知り、AMの活用には弱い部分を理解して「使えない」ではなく補っていく。既存品の品質要件や寸法公差を見直し、過剰であれば緩和することで適用できる部品拡大や2次加工削減や歩留まり改善などもできる。

これらは樹脂LPBFに限らずAMに関わる方々がぜひとも知っておくべきポイントで、ぜひ自分事に置き換えて参考にしていただくことをお勧めする。アスペクトは秋にもセミナー開催を計画中とのことで、今後も装置材料開発や活用の発展に注目していきたい。

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設計者からAMソフトウエア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、AMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしていきます。

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