【イベントレポート】 オンラインミートアップイベントJAMM#12
国内Additive Manufacturing業界関係者の横の連帯を目指して開催されたオンラインミートアップイベントJAMM(Japan Additive Manufacturing Meetup)。2023年3月3日(金)に開催された、第12回目からは運営にシェアラボ編集部も参加し、AM関係者同士の立場を超えた出会いと情報交流の場をめざした。本稿では、1年の空白期間を経て再起動したJAMM#12の様子をご報告したい。
目次
プラントエンジニアリング業界とAM(日揮グローバル:吉本氏)
プラントエンジニアリングや建設、石油、ガス業界におけるエンドユーザーの立場から、日揮グローバル(株)の吉本氏が登壇。
石油精製工場などの総合エンジニアリング事業を海外展開している日揮グローバル株式会社は、石油精製プラント建設や、水素やアンモニアなどの最新エネルギー精製プラントへの事業を広げている。そんな同社が、主にコンクリート材を活用した3Dプリンティング活用について取り組みを語った。
海外でのプラント建設は、数万人の労働者が4~5年かけて巨大な工場設備を建設する大規模事業だ。そのための作業員確保や作業品質の均質化など課題も多いが、3Dプリンターを現場に導入することで、リードタイムの短縮、造形の自由度向上、品質一定化、現場の省人化などのメリットが期待できる。
日揮グローバルでは、建設現場の工場化や自働化を視野に、3Dプリンターの導入を多角的に検討。社員を対象にした3Dプリンターの活用やエンジニアの育成に取り組んでいるが、建設用3Dプリンターを実際に活用する際の課題も明らかになってきた。
雨や風、日照、気温などが日々異なる環境要因に対して、適切な造形条件を検討する必要があり、多数の試行を通じてノウハウを蓄積する必要がある。材料やレイヤータイム(積層時間)などの造形条件の最適化によって、均一で品質の高い出力を維持できることが現在の目標だ。材料に関する国際的な規格整備、積層したコンクリート構造は、まだコスト面や構造解析の難しさなどの課題が残るという。
金属や樹脂などの材料の使い分けについてはまだ研究段階であるものの、将来的にはリペアパーツや交換部品などで3Dプリンターが使われ、最終部品としても使用することが考えられるため、将来的には重要な役割を果たすことがある生産設備であるとの考えを示した。
Carbon、日本における活動について(Carbon Technologies Nippon:青木氏)
今年で創業10周年となる米3DプリンターメーカーCarbon社は、日本の化学メーカーJSRとの提携を終了し、2023年3月以降はCarbon Technologies Nippon株式会社が日本における活動を担っている。同社の青木氏が国内における導入事例と今後の展望などを語った。Carbon社は新しい製品を短時間で提供することを目指す3Dプリンターメーカーであり、世界中で1100台以上が稼働している。4種類のプリンターと約10種類の樹脂のラインナップ、ラティスの生成が容易な「Carbon Design Engine」というソフトウェアが特徴だ。
広範な産業向けにプリンター、ソフトウェア、材料などを自社で一貫して開発しており、酸素透過性ウィンドウを利用してグラデーションのある層を重ねて均等に造形できる技術など、技術的な独自性がある。3Dプリンターを導入した顧客に対して、サブスクリプション形式でサポートを提供していることも説明。名古屋市にテクニカルセンターを開設しており、プリンターや自動洗浄機のデモのほか、最終製品の展示も可能という。
国内の導入事例については、眼鏡製品を扱うジンズホールディングスから発売されたサングラス「Neuron 4D」、巻線コイルメーカーNITTOKUのカスタマイズされたRFID製品。またスポーツゴーグル製造の山本光学と大阪工業大学が協働して開発した児童向け義眼「アイピッタリン」やメディカルインソールなどの多岐にわたる事例が紹介された。生産設備のDX化を推進する「インテリジェントタグシステム」の提供にも取り組んでいるという
3Dプリンターを使用することで、試作を高速・廉価に製造できるだけでなく、新しい工法として製品性能を従来工法に比べて耐久性向上、軽量化、低コスト化などの性能向上にもつながっているという。素材の耐候性、劣化の度合いについては、ウレタンと同程度の耐久性があるとのこと。ラティス構造の衝撃吸収性については解析シミュレーションを通じて事前に最適化できることにも触れられた。こうしたソフトウェア活用は設計最適化のために重要な役割を果たすためCarbonとしても取り組みを強化しており、トポロジー最適化機能を拡張するためにParaMatters社を買収するなど取り組みを続けている。
Carbonの日本での展開はCarbon Technologies Nipponとして再スタートを切ったわけだが、豊富な導入実績とサブスクリプション制度を通じた丁寧なユーザーサポートを武器に日本市場の更なる開拓を目指す考えを改めて示した。
ShareLabは2019年から3Dプリンターに関する情報に特化したニュースサイトを立ち上げ、業界動向を発信している。当セミナーでは、今年のTCT Japan 2023の様子を弊誌がレポートした。
TCT Japan 2023の会場取材から見えてきた大きなトレンド変化として、展示側の訴求ポイントが装置の性能訴求から事例やアプリケーション訴求に移行している傾向がある。それに伴って販売店やサービスビューローの出展が増加し、展示内容も具体的な事例が増えてきた傾向が見受けられた。技術的な変化としては、粘度の高い材料を使って電子部品に使われるコネクター部品などの造形ができる造形装置や、バインダージェット方式の金属3Dプリンター、セラミックス3Dプリンターなどが登場しているなどのトピックスを紹介した。
材料については、サステナブル対応への関心が高まっており、多くの大企業が長期的な視点で取り組みが始まろうとしている。サステナブル対応の材料への置き換えを進めており、具体的なロードマップの策定が行われている。金属廃材をリサイクルして3Dプリンター用の粉末材料をリサイクルで作るMollyworksの取り組みや、海水でも分解できる生分解性樹脂材料の展示を行ったNCI販売などが紹介された。
受託造形を行うサービスビューローの取り組みとしては、サブスクリプションを利用した一定量重量の作り放題サービス(依頼回数4回までは月額60万円で製作など)を開始したオリックス・レンテック株式会社と株式会社B’fullの取り組みなどの新しい利用形態の登場を紹介した他、実践的なアプリケーション展示を行っていた出展社の紹介を行った。
DMG森精機の金属3Dプリンターを使用した金型製造で金型寿命を3倍に伸ばすなどを標榜しているフジ社、レース車両のエンジン部品を一体造形することで軽量化と短納期開発を推進しているNTTデータゼムテクノロジーズの、カシオの腕時計G-SHOCKの周年記念モデルのベゼル部分に日本刀の波紋を再現した金属技研などの取り組みを紹介した。
アメリカ合衆国大使館の商務部に所属する大橋氏が、アメリカ現地の展示会「Rapid + TCT」を紹介する一幕も。現地の企業訪問をアレンジし、展示会入場パスやセミナーの割引などの特典を提供することで、展示会に参加することの利点を強調している。今年はゴールデンウィークの5月2日から4日にシカゴで開催予定。350社以上が出展する見込みで、1万人以上の来場者と200以上のセッションも予定されており、大学の研究者や業界団体などの関係者がスピーカーとして参加するという。
国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。