
フルカラー3Dプリンターが切り拓く製造の新時代
2025年9月のFormnext Asia Tokyo Forumで開設されたシェアラボ公開取材ブースにて、合同会社吉本アートファクトリー代表の吉本大樹氏にお話を伺った。玩具メーカーでモデラーとして活躍した経験を持つ吉本氏は、現在、フルカラー3Dプリンターを武器に「在庫ゼロ」「短納期」というビジネスモデルを確立。さらに、3Dデータ流通の課題を解決する新プラットフォーム「Mu(ミュー)」を開発中だ。フルカラー3Dプリンターを活用した製造業とクリエイティブの融合事例を詳しく紹介する。
お時間がある方はyoutubeでも収録を公開しているので直接吉本氏のお話を聞いてみてほしい
フルカラー3Dプリンター事業への転身――玩具業界からの独立
1995年兵庫県三田市生まれの吉本氏は、元々プラモデル設計やフィギュア原型師として玩具メーカーでキャリアをスタートさせた。クリエイターとしての経験を積む中で、従来の製造プロセスの課題を肌で感じ、フルカラー3Dプリンターを活用したビジネスモデルでの独立を決意した。
合同会社吉本アートファクトリーと株式会社吉本3Dファクトリーを立ち上げ、神戸と高知の2拠点でフルカラー3Dプリンター事業を展開。現在、ミマキ製フルカラー3Dプリンター5台体制(2207×4台、553×1台)で製造環境を構築し、フィギュアやアクリルグッズから美術館展示物、大型造形物まで、幅広い製品を手がけている。
フルカラー3Dプリンターと金型製造の比較――圧倒的な優位性
従来の金型製造の課題
従来の金型製造では以下の課題があった。
- 初期投資:数十万円から数百万円が必要
- 納期:数か月単位の製造期間
- 在庫管理コスト:製造後の保管・管理費用が経営を圧迫
- 小ロット対応の困難:少量生産ではコストが見合わない
フルカラー3Dプリンターの優位性
吉本氏のビジネスモデルの核心は「在庫を持たない」ことにある。フルカラー3Dプリンターを活用することで以下のメリットを実現している。
- データがあれば即座に製造開始
- 必要な分だけ生産可能(オンデマンド生産)
- 在庫リスクがゼロ
- 短納期対応が可能
- 小ロット生産でもコスト効率が良い
吉本氏は「注文が入ってから作る」ECサイト運営を実践し、在庫リスクをゼロに抑えながらフルカラー3Dプリンターによる多品種少量生産を実現している。
フルカラー3Dプリンターの活用事例(1):関西万博プロジェクト
星野リゾート万博パビリオン向けフィギュア製造
フルカラー3Dプリンターの短納期対応力を示す好例が、星野リゾートの関西万博パビリオン向けフィギュア製造だ。依頼から納品まで2週間という短納期要求に対し、フルカラー3Dプリンターならではの機動力で応えた。
「命を巡る冒険」パビリオン大型造形物
さらに注目すべきは、関西万博「命を巡る冒険」パビリオンでの大型造形物プロジェクトだ。川森正治氏のデザイン、海洋堂の造形という豪華コラボレーションで、総印刷時間300時間に及ぶ超大型造形に挑戦。フルカラー3Dプリンターによる大規模造形の可能性を実証している。
フルカラー3Dプリンターの活用事例(2):美術館グッズ展開
イノウエ現代美術館とのコラボレーション
フルカラー3Dプリンターによる在庫ゼロビジネスモデルのもう一つの成功例が、美術館・博物館グッズ展開だ。イノウエ現代美術館とのコラボレーションでは、現代アート作品「泣きおじさん」のフィギュア化を実現した。
美術館グッズでのフルカラー3Dプリンター活用メリット
- 少数生産でもコストを抑えられる
- 在庫リスクなしでオリジナルグッズを展開
- 話題性と集客効果を創出
- 新しいブランディング戦略として活用可能
フルカラー3Dプリンターの特性を活かした美術館グッズ展開は、文化施設の新しい収益モデルとして注目を集めている。
フルカラー3Dプリンターの活用事例(3):地域連携プロジェクト
高知県アニメクリエイター支援
吉本氏は高知拠点で、フルカラー3Dプリンターを活用した地域のアニメクリエイター支援プロジェクトとも連携している。高知県アニメクリエイターアワードのトロフィー製作を手がけるなど、クリエイティブ産業の育成にも貢献。地方から全国へ、さらには世界へとフルカラー3Dプリンタービジネスを展開する可能性を示している。
フルカラー3Dプリンターによる透明造形技術
骨標本モデルの製造
フルカラー3Dプリンターの技術面での興味深い取り組みとして、透明造形技術を用いた骨標本モデルの製造がある。動物の骨格をフルカラー3Dプリンターで透明樹脂造形し、内部構造が見える教育教材や商品として展開している。
取材では印刷プロセスのタイムラプス映像が公開され、フルカラー3Dプリンターの精度の高さが実証された。
フルカラー3Dプリンターを活用した新プラットフォーム「Mu(ミュー)」
3Dクリエイターの収益化課題
吉本氏がフルカラー3Dプリンター事業を展開する中で直面したのが、3D業界全体が抱える深刻な課題だ。
現状、3Dクリエイターの収益化手段は限られている。データを直接販売すれば流出リスクがあり、ガレージキット製造では個人による小規模イベント販売が限界だ。ワンダーフェスティバルのような大規模イベントでも、物理的な制約から参加できるクリエイターは限定される。
吉本氏は語る。「データ販売以外の収益化方法が必要だった。クリエイターがデータの所有権を保持したまま、フルカラー3Dプリンターによる製造で収益を得られる仕組みを作りたい」
「Mu(ミュー)」――フルカラー3Dプリンターのデータ流通革命
こうした課題認識から生まれたのが、ブラウザベース3Dソフトウェア兼データ流通プラットフォーム「Mu(ミュー)」だ。フルカラー3Dプリンターを含む3D製造の民主化を目指している。
YouTubeに学ぶ「3Dの民主化」
吉本氏のビジョンは明確だ。「YouTubeが動画産業を民主化したように、フルカラー3Dプリンターを含む3D産業も民主化したい。誰もがどこからでも3Dデータを扱える世界を実現する」
現在、3Dデータを扱うには技術的ハードルが高い。専門ソフトウェアの習得、ファイルフォーマットの理解、高額な初期投資――これらが参入障壁となっている。Muは、これらの壁を取り払い、フルカラー3Dプリンターによる製造を誰もが利用できるようにする設計だ。
フルカラー3Dプリンター対応プラットフォーム「Mu」の革新的機能
1. データ修正の完全自動化 エラー検出から修正まで一瞬で完了。バウンダリーエッジ(データ欠損)の自動補正機能により、クリエイターはフルカラー3Dプリンターでの製造適合性を気にせずデザインに集中できる。
2. フルカラー3Dプリンター見積もり・決済の自動化 サイズや素材を選択すれば、即座にフルカラー3Dプリンターでの製造コストを算出。クリエイターとユーザーを直接つなぎ、中間コストを削減する。
3. マーケットプレイス機能 販売リンク公開とショップサイト展開が可能。クリエイターは自分のデータを登録するだけで、世界中のユーザーにフルカラー3Dプリンター製品を販売できる。
4. データ流出防止の仕組み マスターデータと表示用データを分離管理することで、クリエイターの知的財産を保護しながらフルカラー3Dプリンターでの製造・流通を実現。
フルカラー3Dプリンターネットワークのグローバル展開構想
吉本氏の野望はさらに大きい。「世界中のフルカラー3Dプリンターをネットワーク化し、データをアップロードすれば最寄りの工場が製造して配送する」という構想を描いている。
ワンダーフェスティバルのような物理イベントとデジタルプラットフォームのハイブリッド展開も視野に入れ、リアルとバーチャルを融合した新しいフルカラー3Dプリンター製品流通の形を目指す。
読売新聞社との協業事例
「Mu」の技術力を示す事例として、読売新聞社との協業がある。犬山城のフォトグラメトリーモデルを使った実証実験では、内部と外部の断面表示機能など、高度な3D処理をブラウザ上でリアルタイム実行。フルカラー3Dプリンターでの出力を前提とした高度なデータ処理能力を実証した。
フルカラー3Dプリンター事業の技術基盤――東大出身CTOの開発力
「Mu」開発の技術的基盤を支えるのが、東京大学出身の天才エンジニアだ。C++サーバーから自社開発する徹底ぶりで、フルカラー3Dプリンターを含む3Dデータ特化型インフラを一から構築している。
フルカラー3Dプリンタービジネスで活躍する人材を募集
吉本氏は現在、フルカラー3Dプリンター事業拡大に向けて人材を募集している。「一緒にフルカラー3Dプリンターで3Dの未来を創る仲間」を求めており、エンジニア、デザイナー、営業など多様な職種での採用を検討中だ。
まとめ――フルカラー3Dプリンターが実現する製造業の未来
玩具メーカーのモデラーから起業家へ、そしてプラットフォーマーへ。吉本大樹氏の歩みは、フルカラー3Dプリンターが切り拓く3D産業の未来を体現している。
フルカラー3Dプリンターによる在庫ゼロ・短納期ビジネスモデルは、すでに関西万博や美術館グッズなど実績を積み重ねている。そして、フルカラー3Dプリンター対応データ流通プラットフォーム「Mu」の開発は、クリエイターの収益化課題を解決し、3D産業の民主化を実現する可能性を秘めている。
製造業とクリエイティブの境界が溶け合い、フルカラー3Dプリンターを中心とした新しい産業が生まれようとしている。吉本氏の挑戦は、日本のフルカラー3Dプリンター産業が世界をリードする未来への第一歩となるだろう。
フルカラー3Dプリンター関連用語解説
フルカラー3Dプリンターとは 従来の単色3Dプリンターと異なり、CMYKやRGBのカラー造形が可能な3Dプリンター。ミマキエンジニアリングなどが業務用機種を展開しており、フィギュアやアート作品、試作品など多彩な用途で活用されている。
フルカラー3Dプリンターの造形方式 インクジェット方式、粉末積層方式などがあり、本記事で紹介したミマキ製フルカラー3Dプリンターはインクジェット方式を採用している。
フルカラー3Dプリンターのビジネス活用 小ロット生産、オンデマンド製造、在庫レス運営、短納期対応など、従来の製造方法では困難だったビジネスモデルを実現できる。
登壇者プロフィール 吉本大樹(よしもと・だいき) 合同会社吉本アートファクトリー 代表 株式会社吉本3Dファクトリー 代表 一般社団法人3D教育協会 理事
1995年兵庫県三田市出身。フルカラー3Dプリンターを活用した企画・データ制作・製造・コンサルティングを手がける。プラモデル設計・フィギュア原型師としてのクリエイター経験を持ち、製造とクリエイティブの両面からフルカラー3Dプリンター事業と3D業界の課題解決に取り組む。神戸・高知の2拠点でミマキ製フルカラー3Dプリンター5台体制で事業展開。
- Webサイト: https://y-artfactory.jp/
- 株式会社吉本3Dファクトリー: https://y3d.y-artfactory.jp/
- 海洋3Dプロジェクト: https://kaiyo-3d.y-artfactory.jp/

