3Dプリンターを使うメリット・その用途とは?業界別の活用事例を紹介
はじめに:海外と日本の3Dプリンター活用、第一歩の違い
海外と日本で3Dプリンター活用に大きく違いが生まれています。日本が大きく後れを取っていると言われている。その原因に関して、ShareLab(シェアラボ)では各種業界団体に意見や対策を聞いてきましたが、ここでは兵庫県立大学の柳谷教授の言葉を紹介します。
「日本と欧米の大きな違いはどこで3Dプリンターを使うか決めることができたかどうかです。欧米企業は、重要ではないが違いにつながる部分に上手に導入して経験値を積み重ねてきました。たとえば航空機の座席。安全性能や耐久性がシビアに求められない、軽量化が大きなコストダウンにつながる部分です。こうした小さなトライの積み重ねがノウハウと信用につながり、ジェットエンジンなどの部品造形につながっていったんです」(兵庫県立大学 柳谷教授)
どのように作るか以前に、何を作るべきかは大きな問題です。これを作ると決まれば、すり合わせ技術の集積である3Dプリンター技術は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスになりうるでしょう。本稿ではあらためて、3Dプリンター導入のメリットを確認し、新しい価値を生み出すための道を検討していきます。
3Dプリンターを導入するメリット
3Dプリンターのグローバル市場は毎年着実に拡大しており、2022年には9000億円近くまで達する見込みです。世界中で3Dプリンターが積極的に活用されている中、日本では200億円程度の規模でほぼ横ばいが続いてます。
ここで今一度、3Dプリンターを導入することでどのようなメリットがあるのかを確認してください。
①アイデアを素早く具現化できる
立体的な構造物を作製する際、多くの業界では実際に作製する前に金型をつくるところから始めます。イメージに合うように金型を繰り返し作製すれば、その分費用がかかってしまいます。特に、大きな金型となればその費用は無視できないものになるでしょう。
そのため、金型を作製する前にはデータの状態で繰り返しチェックを行い、なるべく金型の修正が必要にならないように配慮されます。その結果、金型作製によるアイデアやイメージの具現化までには、長い時間がかかります。
3Dプリンターは3Dデータをもとに造形していくものなので、金型を必要としません。そのため、試作品を素早く繰り返し作製できます。3Dプリンターで造形したものは、実際にさまざまな角度からチェックができますので、設計上のミスも発見しやすくなり、アイデアの修正がスムーズになります。
②開発期間・コスト削減の実現
金型を必要としない3Dプリンターを導入すると、金型の外注が不要になり費用の削減につながります。
また、自社で試作品を作製できるようになるので、開発に至るまでに時間も短縮できます。切削も必要とせず、1度で造形できる点でもコストカットに貢献します。
③品質の向上につながる
費用の面をクリアすることでデータではなく、実際に手で触れられる試作品を繰り返し作製できるので、形状や動作の念入りな確認が可能になります。
3Dプリンターで造形できるサイズであれば、従来であれば複数の部品を組み合わせて作っていたものを1つの部品として作製することも可能です。3Dプリンターを活用することで、耐久性や品質の向上が見込めます。
④3Dプリンターならではの設計が可能
3Dプリンターの大きな魅力として、複雑な形状のものを容易に作製できる点が挙げられます。3Dデータさえあれば、熟練した切削技術がなくても造形ができますし、切削では不可能だった形状の構造物の作製も可能になります。
⑤小ロットの製品や部品をオンデマンド製造できる
金型作製が不要となる3Dプリンターは、小ロットの製品をつくる際に特に大きな効果を発揮します。従来は依頼があってもコスト面で折り合いがつかず受注につなげられなかった案件も、3Dプリンターを導入することで新たなビジネスチャンスとすることもできるでしょう。
近年では、Web上でデザインから製造までを依頼できるオンデマンドサービスも生まれてきました。日本ではまだまだ一般化していない3Dプリンター活用を積極的に取り入れていくことが新たなビジネスへとつながっていくことも期待できます。
⑥今後のモノづくりに適した製作体制の構築ができる
日本企業では試作品づくりのために3Dプリンターを導入する場合が多いものの、欧米を中心した諸外国では、製造コストの削減、サプライチェーンの分断といった利益の追求のため、最終製品となるものまで3Dプリンターで作られている例が多いです。
人件費や製造コストの問題は、日本でも大きな課題であることは変わりありません。むしろ、労働人口の減少が始まっている日本においては特に注視する課題であると言えるでしょう。
製造業をはじめとした、今度のモノづくり業界においては、試作品作製に留まらない早い段階での3Dプリンターの積極導入を行うことで、将来に向けた生産体制の構築につながります。
業界別活用事例
航空宇宙業界の事例
3Dプリンターを活用したモノづくりは世界各国で進行しています。現在最も3Dプリンター活用が注目されているのは、業界独自の規格対応が求められる中、高性能・高付加価値な部品を追求しなければならない航空・宇宙・医療業界です。
>>業務用3Dプリンタ―の基礎知識「航空宇宙業界における3Dプリンターの活用」
自動車業界の事例
既存工法ではできない部品製造をAM技術で実現するというブレークスルーを模索しているのが自動車業界。排ガス規制やEU諸国内の騒音規制など、走行性能を落とさずにシビアな環境性能を実現することを求められている中で、自動車業界も3Dプリンター活用に取り組みを見せています。
>>業務用3Dプリンタ―の基礎知識「自動車業界の3Dプリンター活用の現状と将来」
>>業務用3Dプリンタ―の基礎知識「自動車業界の試作開発部門で活躍する3Dプリンター」
おわりに:3Dプリンター活用とは
日本企業は優れた工作機械とすり合わせ技術により世界に類を見ない精度のモノづくりを実現してきたと言われています。しかし現状優れた技術を持つがゆえに、新しい技術に挑戦する動機を失ってしまいました。まさにイノベーションのジレンマを体験しているといえるかもしれません。
そんな中、海外企業の3Dプリンティング技術活用が大きく取り上げられ、日本が大きく後れを取っている状況に注目が集まってきています。3Dプリンター活用が大事なのではなく、3Dプリンター活用で解決できる社会的課題や技術的課題の解決こそ重要です。3Dプリンター活用の事例を見ていく中で、自社の取り巻く環境や製品が社会に対して貢献できる価値を最大化するために、3Dプリンター活用を手段として用いる余地があるかを問いかけ続ける必要があるかもしれません。