自動車業界で活躍する3Dプリンター製の治具・工具
製造業では試作分野での利用が主だった3Dプリンターですが、3Dプリンター自体の高性能化や材料の多様化により、利用範囲の拡大が加速しています。例えば、エンドユーザー向けの高付加価値部品の製造に加えて、開発・生産時に用いる治具・工具分野への適用が挙げられます。この記事では、自動車業界において治具や工具の製造に3Dプリンターを用いるメリットや具体例を紹介します。
3Dプリンターで治具・工具を作るメリット
3Dプリンターで治具や工具を作るメリットには、さまざまなものがあります。ここでは代表的なものを3つに分類して解説します。
① 短納期・低コスト
3Dプリンターを用いた治具製作は従来の手法よりも、短納期・低コストを実現できます。
従来の機械加工による治具製作では、治具用の3Dデザインをした後、加工用の図面を作成してから、加工に取りかかります。実際に作って不都合があれば、図面の修正やその修正内容で問題の有無の承認、製作など一連のプロセスを繰り返す必要があるため、どうしても時間がかかってしまいます。
一方、3Dプリンターで治具製作を行う場合には、3DCADデータでデザインを作成したら速やかに製作に移れるため、治具を短期間で製作、修正できるようになります。また、3Dプリンターでは精度が不十分で、機械加工での仕上げが必要な治具の場合にも3Dプリンターのメリットが活かせます。
最終的なデザインを明確にし、機械加工で精度出しをする前までの工程を3Dプリンターで製作することで、コスト低減と納期短縮が可能です。
② 作業者の使いやすいデザインや重量
機械加工で製作する金属製の治具は、中空の加工が難しく、材料自体も重くなりがちです。治具を繰り返し持ち上げたり、移動させたりする作業を行う場合には、作業者への負担が大きくなってしまいます。
3Dプリンターでは樹脂を用いることが多いため、金属よりも軽量の材料を用いることができます。また、機械加工では実現が難しい、中空のデザインや複雑な形状を実現できるため、さらなる軽量化が可能です。
また、デザイン面に関しては、人間工学に基づいて人間が持ちやすい、複雑な曲線形状を実現できます。量産工程での繰り返し作業でも作業者にとって使いやすく、身体的な負担を抑えた治具が製作できるでしょう。
③ 再現性高く再製造が容易
生産工場で使用する治具や工具は、繰り返し使用していく中で修正や再生産が必要になる場合があります。また、海外拠点で同じ部品を生産する場合などは、生産品質を安定させるために、マザー工場と同じ工程を実現する必要があり、治具や工具も同じものが必要です。
3Dプリンターの場合には、3Dデータと治具を造形する設備本体、また必要な材料さえあれば、どこでも同じ品質の治具を繰り返し製造することが可能です。短期間で製造できるため、突発的なトラブルであったとしても生産工程への影響を最小限に抑えられます。
3Dプリンターの治具・工具の実例
実際に、3Dプリンターを用いて治具・工具を製作することで、開発効率の向上やコスト削減を実現した事例を2つ紹介します。1つめはプレス金型の設計や製作を請け負うヨロズエンジニアリングの検査治具で、2つめは自動車メーカー・ダイハツ工業の砂型です。
① 3Dプリンター製検査治具| ヨロズエンジニアリング
サスペンションの性能開発から量産までを一貫した体制で行っているヨロズエンジニアリングでは、3DCADのデータから3Dプリンターで検査治具の製作をすることで、生産性を大きく向上しています。
1つの製品を作るために1つ必要な検査治具は、鋼材を削ってボルトナットで組み立てており、重いものは一つあたり50kgから200kgにも及びます。また、製作には1週間程度かかっており、工数低減や期間短縮が課題となっていました。
治具製作に3Dプリンターを用いることで、検査治具の重量は従来比95%低減、加工時間は従来比84%削減しています。今後はより高精度な検査治具を実現するために、研究を進めています。
② 3Dプリンターで作る砂型| ダイハツ工業
ダイハツ工業では、試作部品向けの工具である鋳造用の砂型を3Dプリンターで製作しています。
エンジン部品などに使われるアルミや鉄製部品の砂型ですが、従来は木型や金型を一度作成し、それに材料となる砂を押し込んで砂型を製作していました。このように、砂型を作るための木型・金型製作が必要な場合には、どうしても試作期間が長期化してしまいます。
また、エンジンなどの部品では中空構造を作る必要があるため、時間がかかったとしても鋳造後に崩して排出が可能な砂型の製造は必要不可欠で、木型や金型では代用できます。
そこで、ダイハツでは3Dプリンターで砂型を製作する技術を開発することで、従来1ヶ月以上かかっていた砂型の製作期間を5時間にまで短縮しました。さらに、砂を特殊な素材でコーディングすることで、砂のリサイクル率100%を実現しています。
このように、製作期間の短縮やコスト低減に加えて、環境負荷の低減も実現する技術が開発できたため、今後は量産での採用を視野にさらなる研究を進めています。
まとめ
近年は生産の海外展開や作業者の負担軽減、作業の標準化推進などにより、使いやすい工具や治具が必要とされています。また、治具・工具は多品種少量生産なため、製作期間が長くなり、コストも高くなりがちです。
3Dプリンターを用いることで、治具・工具の軽量化や短納期・低コストの実現が可能です。実際に、量産工程や試作工程において、治具・工具の製作に3Dプリンターが採用されており、今後もその流れは拡大していくでしょう。