EOS GmbH(本社ドイツ・ミュンヘン、以下EOS)と株式会社NTTデータ ザムテクノロジーズ(本社 東京、以下XAM)は共同で、2025年7月10日(木)、11日(金)に、大阪に設けらたXAMの研究開発拠点Digital Manufacturing Center(DMC)にて、3Dプリンティング技術活用セミナー「未来の安全保障分野をリードする 3Dプリンティング技術の可能性」を開催した。(記事中写真、画像はEOS社提供)
目次
EOSとXAMについて
EOSは、産業用3Dプリンティング向けのResponsible Manufacturing(責任ある製造)ソリューションの大手サプライヤーだ。1989 年以来、樹脂・金属材料を使ったAM装置を製造販売するほかに、戦略から教育、生産まで、専門家による支援、技術、サービスを提供することによって顧客の革新と差別化を実現し、AM活用を通じた製造業の未来を切り開いてきた。またXAMはEOS社の国内代理店として、AM関連ハードウェア・ソフトウェアの販売・保守とAM技術を活用した量産品の開発支援と受託製造を行っている。
セミナー「未来の安全保障分野をリードする 3Dプリンティング技術の可能性」を開催
急速に進化する防衛・安全保障分野において、コスト効率の向上、軽量かつ高強度な部品の実現、そして信頼性の高いサプライチェーンの構築がこれまで以上に重要となっている。 EOSとXAMは、こうしたニーズに応える革新的なソリューションとして、AM技術の可能性に注目し、その最前線での活用事例を紹介するセミナー『未来の安全保障分野をリードする3Dプリンティング技術の可能性』を開催した。本セミナーは2日間開催し、両日とも20名の定員枠はほぼ満席となった。また講演後には参加者同士での活発な意見交換が行われた。
当日の講演・見学内容
セミナーは下記内容で開催された。
- 世界の防衛・安全保障分野における最新の3Dプリンティング技術の適用状況について
EOS社のAndrews Lijoy氏による講演 - XAMとEOSの製品・サービスの紹介
EOSの最新のプロセスや事例、日本未上陸の装置、開発中の技術や、XAMの製品・サービスについて紹介 - AM工場「Digital Manufacturing Center」の見学
プロセス開発から生産まで対応するXAMのAM工場を見学 - ネットワーキング
主催、参加両者の交流会
Andrews Lijoy氏による当日の講演内容

来日講演者 Andrews Lijoy氏 (Applied Solutions Manager - EOS APAC)は、2010年にAM産業に参入し、金型業界で15年の経験を持つ。コンフォーマル冷却金型の開発後、2016年にEOSに入社し、現在アジア太平洋地域のアプライド・ソリューション開発を統括。パラメータ開発、設計エンジニアリング、ビジネスケース開発、モニタリング技術などのテーマでイノベーションチームや製品チームと緊密に連携、新素材の開発を指揮し、AMアカデミーを運営している。講演での要点は以下の通り。
テーマ:
航空宇宙、エネルギー、医療に次いで各国でこの領域でのAM活用が進んでいるとの話は聞くが、実際はどうなのか。航空機、インターネットをはじめ、あらゆる技術が防衛とともに進化してきた歴史があり、そこには防衛に関わらずAMユーザーにとってのヒントがある。
EOSは設立以来軍事には関わらないとしてきたが、新たにポリシーを定めた。
ポリシー:
今後国内および国際的な安全保障上のニーズと倫理的責任とのバランスを目指し、国内および国際的な安全保障と安定性を高め、自由と平和を確保する。
「このポリシーの目的は、防衛産業においてビジネスを行うかどうか、またどのように行うかについて明確なルールと手続きを定め、すべての社員に平等な機会とルールを提供し、コンプライアンスを守りながら迅速かつ適切な判断を下すことを可能にすることにあります。AM技術はデュアルユース(民生・軍事両用)であるとの認識の上で、それに伴う特有の責任があります。そのため、防衛産業とのビジネス方針を明確に定めることは、これらの顧客や用途に対して責任ある関わり方を実現するための重要なステップと考えています。」と説明。
世界的な防衛産業とAMの動向:
AMは航空宇宙、エネルギー、医療などに次いで防衛産業での活用が伸びているが、公表されているのは氷山の一角である。用途は開発、生産、修理・補給で、使用される材料は様々な樹脂や金属である。対象となるのは艦船、航空機、車両、身に着けるものなど非常に多岐にわたり、その範囲は陸海空宇宙に及ぶ。防衛産業でのAM適用は急速に拡大しており、去年と今年の比較でも大きな差が出ている。また、適用拡大に伴いAM技術の習得にも多くの予算が投じられている。また防衛産業の課題と、それを克服するAMの革新について以下スライドに示す。


XAMとEOSの製品・サービスの紹介
XAMは、防衛産業基盤強化法に基づく支援措置や国内AM活用の方向性について解説した。

次に以下の技術的な取り組みが紹介された。
・EOSおよびAMCM製のAM装置に加え、最新の各種ソフトウェアやポストプロセス機器を活用し、プロセス実証を継続。
・Alloyed社(本社イギリス)などグローバルな先進企業との連携も推進。
・ 溶融池の熱管理、レーザー形状制御、レーザー走査制御、自動化ソリューションの強化などEOSソフトウェアの定期アップデート(年2回)によって加わった新機能について紹介した。ハードウェアだけではなく、ソフトウェアを含む造形技術の進化とそれを実現できる背景をアピール。


「Digital Manufacturing Center(DMC)」見学
XAMの施設であるDMCは、最新のソリューションで顧客の課題解決手段の開発、またそれを実証する場所として設立された。今回の見学は単なるショールームツアーとは異なり、10台以上の3Dプリンターが稼働する「AM生産現場」を直接見られる貴重な機会となった。機密保持への配慮が徹底される中、設備・工程を具体的に確認できたことは参加者にとって大きな収穫となった。

まとめ
防衛分野では、一般的に多くの情報が非公開とされる中で、AMの活用をテーマに国内でセミナーが開催されたことは、これまでにない大きな変化の一つであった。今回のセミナーのテーマは防衛ではあるが、民間領域に通じる普遍的なヒントや事例が数多く紹介されたことが印象的だった。紹介された事例の適用領域も、航空機、艦船からヘルメットまで多岐にわたり、それらの活用理由も様々であった。特に防衛分野では、技術革新や意思決定が迅速かつ大規模に進められており、これは他分野への適用を考えるうえでも参考となる。またネットワーキングの時間ではLijoy氏を含め、個別のディスカッションが活発に行われた。セミナー参加者からは「網羅的な内容かつ実作業も見られる有益なイベントだった」との声が寄せられた。
今後、日本国内でも安全保障や防衛は避けて通れない課題となる中で、AM技術が果たす役割は更に拡大するであろう。産業界全体にとっても、こうした知見や人的ネットワーク形成は価値が高く、今後も同様のイベントへの積極的な参加を推奨する。