東レ株式会社は、同社独自のポリアミド(PA)粒子化技術を活用し、パウダーベッドフュージョン方式3Dプリンタに対応したPA12真球粒子「トレパールPA12」を開発した。従来課題であった表面粗さや内部空孔の問題を改善し、造形物の高品質化を実現する材料である。
目次
発表概要
3Dプリンタ市場において、樹脂粉末を用いるパウダーベッドフュージョン(粉末床溶融結合)方式は、高い寸法精度と機械特性を両立できる工法として広く活用されている。なかでもPA12は低温造形が可能で扱いやすく、市場の約7割を占める主要材料と推定されている。
しかし従来のPA12粉末は不定形粒子が多く、粉末層が均一に形成されにくいという課題があった。その結果、造形物の表面粗さが残り、研磨などの後加工が必要になる場合が多い。また、粒子間に生じる微細な空隙が内部空孔を形成し、密度低下によって衝撃強度などの機械特性が十分に発揮できないケースもあった。
真球粒子化による性能向上
東レは、長年培ってきたポリアミドの重合技術および樹脂加工技術を基盤に、粒子を真球化する独自技術を確立している。すでにPA6真球粒子「トレパールPA6」を自動車部材、オフィスチェア、電動工具用途などへ展開してきた実績を持つ。今回、この真球粒子化技術をPA12に適用することで、「トレパールPA12」の開発に成功した。
主な性能向上は以下の通りである。
- 造形物表面の平滑性:約2.5倍向上(面粗度7µm)
- シャルピー衝撃強度:約2倍超向上(50kJ/m²)
- 粒子の均質配列による高密度化
- 既存の3Dプリンタ装置への幅広い適用性
真球粒子により粉末が均一に充填されることで、造形層の安定化と内部欠陥の低減が進み、機械特性の底上げにつながっている。
用途展開と今後の展望
「トレパールPA12」は、耐久性や気密性が求められる用途での適用が想定されている。試作品用途にとどまらず、実用部品への展開拡大も期待される。なお、2026年1月より一部顧客向けにサンプルワークを開始している。東レはこれまで、3Dプリンタ向け材料として以下を展開してきた。
- 2017年:PPS樹脂パウダー「トレミルPPS」(電動車・航空宇宙用途)
- 2022年:PA樹脂パウダー「トレパールPA6」(自動車・電動工具用途)
今回の「トレパールPA12」追加により、3Dプリンタ向け材料ラインアップを拡充する形となる。

編集部コメント
PA12はパウダーベッド方式における主力材料である一方、表面仕上げや強度面では常に改良余地が指摘されてきた。真球化による充填性向上は、一見地味に見えるが造形品質を根本から左右する技術である。既存装置で適用可能という点も、導入ハードルを下げる重要な要素である。試作中心から量産部品への移行が進む中、粉末そのものの品質向上は市場拡大の鍵となる。今後の実部品評価の進展に注目したい。
用語解説
| ■ パウダーベッドフュージョン(粉末床溶融結合)方式 粉末材料を薄く敷き詰め、レーザーや熱源で選択的に溶融・結合させることで積層造形を行う方式。高い寸法精度と機械特性を両立できるため、樹脂・金属分野ともに産業用途で広く活用されている。 |
| ■ PA12(ポリアミド12) ナイロン系樹脂の一種で、低吸水性・耐薬品性・耐衝撃性に優れる。パウダーベッド方式では低温造形が可能で扱いやすく、3Dプリンタ用樹脂粉末の主力材料として広く採用されている。 |
| ■ シャルピー衝撃強度 材料に衝撃荷重を与えた際の破壊エネルギーを測定する指標。数値が高いほど衝撃に対する耐性が高いことを示し、実用部品の耐久性評価に広く用いられる。 |
新素材の関連記事
今回のニュースに関連するものとして、これまでShareLab NEWSが発表してきた記事の中からピックアップして紹介する。ぜひあわせてご覧いただきたい。
国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。



