EPFL、光だけで生体組織様構造を高速造形 ホログラフィック体積3Dプリントの効率を70倍に向上

2026年6月29日
出典:EPFL
出典:EPFL

スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究チームは、ホログラムを活用した新しい体積型3Dプリント技術を開発し、従来手法と比べて約70倍の造形効率を実現したと発表した。この技術により、生体細胞を含む材料でも高精度な3D造形が可能となり、将来的なバイオプリントによる医療用インプラント製造への応用が期待されている。

研究成果は学術誌「Light: Science & Applications」に掲載された。

ホログラムでレーザー光を制御する新たな体積型3Dプリント

今回の研究は、EPFL工学部の応用フォトニックデバイス研究室(LAPD)が開発した「トモグラフィック体積積層造形(TVAM)」をさらに発展させたものである。

TVAMは、感光性樹脂が入った容器を回転させながらレーザー光を照射し、目的の形状を一括で硬化させる体積型3Dプリント技術だ。一般的な積層造形のように層を1枚ずつ積み重ねる必要がないため、非常に高速な造形が可能である。

従来のホログラフィック造形では光の明るさ(振幅)を制御していたが、今回のシステムでは光波の位相(フェーズ)を直接制御する新しいデバイスを採用した。これによりレーザー出力を効率的に利用できるようになり、従来比70倍の効率向上を達成したという。

数秒でミリサイズ、数分でセンチサイズの造形を実現

研究チームによる実験では、ミリメートルサイズの造形物を数秒で、センチメートルサイズの造形物を数分で作製することに成功した。

さらに、この位相制御技術によって「自己修復型ビーム(Self-healing Beam)」の活用も可能となった。自己修復型ビームは、障害物や散乱によって光路が乱れても本来の光学特性を維持できる特殊なレーザー光である。

生体細胞を含むバイオレジンでは光散乱が大きな課題となるが、この技術によって高い造形精度を維持できることが確認された。

EPFL応用フォトニックデバイス研究室長のクリストフ・モーザー氏は次のように述べている。

「本手法が示した効率と精度により、臨床応用に近いスケールで組織様構造をバイオプリントすることが可能になった。」

実物大の耳を造形 再建医療への応用に期待

研究チームは150mWのレーザーダイオードを用いて、実物大の人間の耳の造形にも成功した。

これは再建医療向けのバイオプリントインプラント開発に向けた重要な成果と位置付けられている。

また、体積64mm³のサンプル内に埋め込んだ生体細胞を観察した結果、6日後も細胞が生存していることを確認した。さらに細胞同士が組織的なネットワークを形成している様子も観察されている。

生体適合性を維持しながら大型構造物を造形できる点は、今後の再生医療分野において大きな可能性を示す成果といえる。

ホログラフィックVAM技術により、ゼラチンベースのレジンで造形されたヒトの耳モデル。生体適合材料を用いた高精細な3Dプリントを実現している。出典:EPFL LAPD(CC BY-SA)
ホログラフィックVAM技術により、ゼラチンベースのレジンで造形されたヒトの耳モデル。生体適合材料を用いた高精細な3Dプリントを実現している。出典:EPFL LAPD(CC BY-SA)

表面品質向上や無回転造形にも取り組む

研究チームは造形物表面の品質向上にも取り組んでいる。

今回のシステムには、レーザー光のランダムな干渉によって発生する「スペックルノイズ」を低減する技術も組み込まれており、より滑らかな表面品質を実現している。

これらの技術が実用化されれば、再生医療や組織工学だけでなく、複雑な内部構造を持つ高機能部品の製造にも応用が広がる可能性がある。

編集部コメント

バイオプリンティング分野では、造形速度と細胞生存率の両立が長年の課題となってきた。今回のEPFLの研究は、ホログラムによる位相制御を活用することで、その課題に対して新たな解決策を示した点が注目される。

特に、実物大の耳を造形できるスケールまで到達したことは大きい。現在は研究段階ではあるものの、将来的には患者ごとに最適化された軟骨や組織の製造につながる可能性がある。医療用途だけでなく、従来の積層方式では難しい大型・高速造形技術としても今後の発展に期待したい。

用語解説

■ TVAM(Tomographic Volumetric Additive Manufacturing)
感光性樹脂に複数方向から光を照射し、対象物全体を一括で硬化させる体積型3Dプリント技術。従来の積層造形と比較して高速な造形が可能である。
■ ホログラフィック3Dプリンティング
ホログラムを利用して光の位相や強度を制御し、3次元形状を形成する3Dプリント技術。複雑な形状を高速に造形できる特徴を持つ。
■ バイオプリンティング
生体細胞や生体材料を用いて人工組織や臓器の構造を作製する3Dプリント技術。再生医療や創薬研究で活用が進んでいる。
■ スペックルノイズ
レーザー光が干渉することで発生する粒状のノイズ。3Dプリントでは造形物の表面品質低下の原因となる。

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