英国の3DプリンターメーカーPhotocentricは、宇宙空間での部品製造を可能にする自律型3Dプリント製造プラットフォーム「CosmicMaker」の開発状況を公開した。同社は欧州宇宙機関(ESA)の支援を受けながら開発を進めており、今後は微小重力環境での飛行試験や国際宇宙ステーション(ISS)での実証試験を目指す。
目次
宇宙で部品を作る時代へ
宇宙ミッションでは、故障した機器の修理や消耗部品の交換のために定期的な補給ミッションが必要となる。こうした保守・補給活動は大きなコスト要因の一つとなっており、長期滞在型の宇宙開発における課題とされている。
Photocentricは2023年から、宇宙飛行士が必要な部品を現地で製造できる自律型3Dプリントシステムの開発に着手した。対象となるのは、退役が近づく国際宇宙ステーション(ISS)の後継となる新世代の宇宙ステーションや宇宙船である。
同社は、宇宙空間で必要な部品をオンデマンドで製造できる環境を構築することで、補給依存を減らし、長期間の宇宙活動を支えることを目指している。
LCD方式を活用した「CosmicMaker」
CosmicMakerは、Photocentricが長年展開してきたLCD方式の光造形技術をベースに開発された。
同社によると、これまでの試験により以下の性能を確認している。
- あらゆる方向での造形が可能
- 正負の重力環境や真空環境下でも安定して動作
- 無重力環境への適性を示す初期検証に成功
- 小型・軽量かつ低消費電力設計
- 宇宙用途に適したさまざまな材料への対応
また、対応材料として熱硬化性樹脂や複合材料、セラミックス、金属材料などが挙げられている。

金属やセラミックスにも対応
CosmicMakerでは、宇宙空間で必要となる多様な機能部品の製造を想定している。
対応材料の例は以下の通り。
- エラストマーや耐熱レジンなどの熱硬化性樹脂
- 繊維強化ポリマーなどの複合材料
- 炭化ケイ素やアルミナなどのセラミックス
- ステンレス鋼やチタンなどの金属材料
これにより、単なる試作品製作にとどまらず、実際に使用可能な機能部品の製造基盤としての活用が期待される。

ISSでの実証試験を計画
次の開発段階として、Photocentricは放物線飛行による微小重力環境での試験を予定している。
さらに、国際宇宙ステーションへの搭載試験に向けた協議も進めており、軌道上で必要な部品を必要なタイミングで製造できる「オンデマンド製造プラットフォーム」の実現を目指す。
将来的には、宇宙ステーションや宇宙船が地上からの補給に依存する割合を減らし、宇宙空間での自律的な運用を支える技術の一つとなる可能性がある。
宇宙製造市場への期待
近年は民間宇宙ステーション計画や月面開発計画が進んでおり、宇宙空間での製造技術への関心が高まっている。
これまでもISSでは3Dプリンターを活用した部品製造実験が行われてきたが、CosmicMakerはより高い自律性と幅広い材料対応を目指している点が特徴である。
Photocentricは今後もESAや産業パートナーと連携しながら開発を進め、軌道上製造技術の実用化を目指すとしている。
編集部コメント
宇宙向け3Dプリンティングはこれまで主に樹脂部品の製造実験が中心だったが、Photocentricは金属やセラミックスまで視野に入れた製造プラットフォームの構築を目指している点が興味深い。月面基地や民間宇宙ステーションの実現には、地球から全ての交換部品を運ぶという発想からの転換が求められる。CosmicMakerが実際にISSで稼働すれば、宇宙製造の新たなステップとなる可能性がある。
用語解説
| ■ ISS(国際宇宙ステーション) 地球低軌道上を周回する有人宇宙実験施設。複数の国や宇宙機関が共同運用しており、微小重力環境を利用したさまざまな研究開発が行われている。 |
| ■ LCD方式3Dプリンター 液体レジンにLCDパネルを通した紫外線を照射し、層ごとに硬化させて造形する光造形方式。高精細かつ比較的高速な造形が可能である。 |
| ■ 微小重力(マイクログラビティ) 宇宙空間や放物線飛行中などで発生する、重力の影響が極めて小さい状態。一般的に「無重力」と呼ばれる環境に近い。 |
| ■ ESA(欧州宇宙機関) ヨーロッパ各国が共同で設立した宇宙開発機関。宇宙探査や人工衛星開発、宇宙産業支援などを行っている。 |
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