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3Dプリンターで24時間以内に家を作る『住宅の再発明』-セレンディクス・パートナーズ

世界の3Dプリンター市場を見渡すと、樹脂と金属以外にも、コンクリートを使った建築用3Dプリンターの存在を見逃せない。例えばドバイでは中国の3Dプリンター企業と100億円単位の契約を結び、建築用3Dプリンターへの投資を行っている。またアメリカやフランスでも災害時や住宅がない人向けに短時間で住宅を建築できる3Dプリンターに関して取り組みを進めている。日本でも大林組が独自のコンクリート材料を開発し3Dプリンターで橋を試験造形しているし、国内でも中堅ゼネコンと共同で土木用の3Dプリンター開発をすすめるポリウスのようなベンチャーも存在する。オフグリッドな状況でも利用できるバイオマストイレと組み合わせた野外トイレの造形を手掛けるなどの動きもある。

そんな中、2025年の大阪万博で3Dプリンターハウスを出展するための事業提案にも応募し「24時間で建築できる30坪300万円の3Dプリンター住宅」を数年以内に実用化するべく活動を続けるセレンディクス・パートナーズのお話を伺うことができた。対応してくれたのは、同社の最高執行責任者(COO)飯田国大氏だ。

( 写真:Sphere 10平米 (C)Clouds AO )

――30坪300万円で住宅を購入できるのは多くの日本人にとって大変うれしい衝撃です。このお取り組みの出発地点は何だったのでしょうか?

私たちは日本の住宅事情は遅れていると感じていました。30年ローンで買った家を3カ月以上の時間をかけて建てることは今の時代にそぐわないと感じていました。そこで、2018年にもっと安く手軽に手が出せる住宅を開発できないかと考え、調査を行いました。世界を見渡すと建築用3Dプリンターで住宅を建てるという取り組みはすでに行われていますが、既存の住宅の形を3Dプリンターで作っている状態でした。コンクリートを積み重ねる際に、鉄筋を作業者が手で差し込んでいるために、人件費が安い国でしか経済的にも成立しない工程です。

そこで、従来の住宅のように、鉄筋をつかって構造体を作っていくのではなく、新しい建築材料をつかって球状の構造体をつくり、住宅を再発明してみようと考えるにいたりました。このアイディアを住宅や建築にかかわる有識者に相談に行ったところ、多くの賛同が得られ、事業を推進しているところです。

――今回は意匠登録をされたということですが、今後の動きはどのようにお考えですか?発表では2025年の大阪万博で3Dプリンターハウスを出展予定、とも聞いていますが?

大阪万博での出展にも期待が高まる3Dプリンター住宅(提供:セレンディクス・パートナーズ)

はい。私たちは2025年に大阪万博に出展するために事業提案に応募しています。この採択の可否はまだわかりませんが、建築基準法上既定のない3Dプリンター工法での家づくりに対応するべく大阪万博の開催予定地自体、再検討する必要があると開催準備プロジェクトの中でも議論いただいているように、真剣に検討を進めていただいています。万博出展は大きなイベントではありますが、それ以前の商用化をめざして活動しておりまして、まず実際にプロトタイプを作るために動いています。

NASAが検討を進める3Dプリンター製の火星住宅(c)NASA / Clouds AO

現在アメリカのNASAでは、火星探査船に3Dプリンターをのせて火星に3Dプリンターで家を作るプロジェクトが進行しているのですが、私たちは、そこで採用が検討されている3Dプリンターを購入の為の手付金を既に支払いました。そのプリンターを使って日本で実際にプロトタイプを建てた上で、改善のための検証を行っていく予定です。

導入予定の自走式建築3Dプリンター(提供:セレンディクス・パートナーズ)

今回購入する建築用3Dプリンターはコンクリートをベースにした材料で、層を積み重ねて家を造形するのですが、実際に球状の構造体を作っていく際には、上部が崩れてくる懸念があります。プロトタイプを実際に作っていく事でこうした課題にどう対処するべきか検討と改善を行っていく予定です。

――住宅というと建築基準法のような法規との関係が気になります。

3Dプリンターハウスは住宅ですので、おっしゃるように建築基準法の中で考えていく必要があります。プロトタイプは10平米以下の、建築基準法に抵触しないサイズでまず建築を行うのですが、そこでの知見を活かして設計変更を行いながら、新材料開発をすすめることで、私たち独自の球状住宅「Sphere(スフィア)」を開発していきます。

「売り切り」と「サブスク」での提供を検討中(提供:セレンディクス・パートナーズ)

建築基準法に従うと、コンクリート材料に鉄筋を挟みこんで造形する必要があるのですが、新しい材料で住宅を建てるような新しい取り組みに関しては、監督官庁が新規に検討できる枠組みが存在します。「大臣認定」という仕組みなのですが、こうした仕組みを通じて「Sphere(スフィア)」が法的にも問題ない形で建築できるように取り組んでいく予定です。

――いつ頃購入できる見込みですか?私も欲しいです。

早ければ2022年から商用化されるかも!?(提供:セレンディクス・パートナーズ)

2021年内にプロトタイプを作り課題の洗い出しと改善検討を行います。早ければ2021年には大臣認定を行い、1年ほどの審査期間を挟んで、問題なければ2022年には販売できるかもしれません。

グランピング施設などでは水回りは外部共用部で用意(提供:セレンディクス・パートナーズ)

まとめ・・・「30坪300万円のおしゃれな新築住宅」、、是非欲しい

新技術や新しい用途の開発には課題が山積みだ。人が住む住宅には経済合理性とともに耐震性能や防火性能といった住む人の安全性が求められるし、断熱性能はちゃんとあるのか、車庫も欲しいけど同じようなデザインで用意できるのか、などの住居としての機能性も求められる。そこには多くの課題があり工夫も必要だろう。

そんな外野の心配をパワフルに叩き潰してくれる推進力をセレンディクス・パートナーズへの取材を通じて感じさせられた。CEOの小間裕康氏は、京大発のEVベンチャーGLM創業し、日本のEVベンチャーとして唯一EVスポーツカー「トミーカイラZZ」の量産を実現した実績を持つ起業家。また取材対応いただいた飯田氏もSaaSデジカメプリントサービスを創業以来複数の事業を立ち上げてきたシリアル・アントレプレナーだ。

住む人の夢をかなえる家という器が、30坪300万円で購入できることは間違いなく大きな魅力だ。「Sphere(スフィア)」にはテレワークが日常化し、ライフワークバランスを個人が再設計できる時代が到来する今日にあって、住むことをより柔軟に再構築してくれる可能性を感じる。「Sphere(スフィア)」の材料に関しては有力なパートナーとNDAを締結し開発にむけての協議も始めたとのことなので、数年以内の商用化には期待が高まる。

個人的には今すぐ欲しい。

編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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