日本の伝統工芸を三次元データとして保存する動きが本格化している。株式会社IZUTSUYA(東京都中央区、以下、IZUTSUYA)は、3D Gaussian Splattingを活用した文化アーカイブ事業において、伝統茶杓「Yuufuku-chaki」シリーズ(01〜07)を3Dデータ化し、プラットフォーム「3Dasset.io」に公開した。写真や映像では残しきれない立体構造や質感を高精度に記録し、100年後、1000年後でも再現可能な形での文化継承を目指す取り組みである。
目次
失われゆく文化を「構造データ」で残す
地震や火災といった自然災害、老朽化、さらには後継者不足による技術継承の断絶により、日本各地の文化財や伝統工芸品は静かに消失の危機にある。従来の写真や動画による二次元記録では、形状の奥行きや表面の質感といった情報が十分に残らず、将来的な復元や研究活用に限界があった。IZUTSUYAは、文化を単なる記録対象ではなく「再現可能な資産」と位置付け、三次元の構造データとして保存する手法を採用した。立体情報そのものを残すことで、時間を越えた継承を可能にする。
Gaussian Splattingによる高精度スキャン
今回のプロジェクトでは、Gaussian Splattingをはじめとする最新の3Dスキャン手法を活用し、茶杓の造形や質感を精密に取得した。従来、文化財クラスの三次元スキャンには数百万円規模の費用が必要とされてきたが、本取り組みではコストを大幅に抑制しつつ、高精度なデータ生成を実現している。取得されたデータは、将来的な復元、研究、教育用途など幅広い分野での活用が可能である。
多層保存と技術更新を前提とした設計
保存対象は3Dデータ単体ではない。撮影時の写真や動画データも併せて保存し、将来的な技術進化に応じて3Dデータを再生成できる構造としている。特定フォーマットへの依存を避け、長期運用を見据えた設計がなされている点も特徴である。技術の進歩に合わせて刷新可能なアーカイブ体制により、半永久的な文化保存を目指す。
実物と1対1対応する真贋証明モデル
「Yuufuku-chaki」シリーズでは、実物1点につき3Dデータも1点のみ発行する仕組みを採用している。発行されたデータは実物購入者に付与され、所有証明として機能する。

データの発行および管理はブロックチェーンで行われ、改ざん不可能な形で記録される。三次元データが工芸品の真正性を担保する仕組みとして機能する点が特徴である。
公開先は以下の通りである。
※ブラウザ表示用のプレビューデータは最適化のため解像度が抑えられている。
文化還元を視野に入れた将来構想
現段階ではアーカイブおよび真贋証明としての活用が中心であるが、今後は3Dデータ販売許可モデルの構築も視野に入れる。データ販売収益を文化財保護や職人への還元につなげる仕組みを整備し、文化保存と経済循環を両立させる構想である。
提供元・関連展開
本シリーズを提供する有限会社シームスは、抹茶セレクトショップ(https://matcha-select.com/)を運営し、日本の茶文化を国内外へ発信している企業である。今回のアーカイブ事業においても、伝統工芸品の価値を未来へ残すという理念を共有し、協力体制を構築した。また、2026年3月中旬には東京都港区南青山3丁目15-9 ウォールナットビルにて、厳選された抹茶を提供するカフェを開設予定である。
今後の展開
IZUTSUYAは、茶杓に続き、文化財建造物、伝統工芸品、美術品などの三次元アーカイブを全国で展開する方針である。すでに複数の文化財の3Dスキャンおよびデータ化を進めており、保存活動を拡大していく構えである。文化を「データという資源」に転換し、正当な権利保有者への還元と未来への継承を両立させる新たな文化保存インフラの構築が始まっている。
編集部コメント
製造業の視点で見ると、本取り組みは単なる文化保存にとどまらない。三次元データ化は、復元・複製・研究活用という点で3Dプリンターとの親和性が極めて高い。特にGaussian Splattingのような手法は、従来のポリゴン主体のモデリングとは異なるアプローチで質感再現性を高めており、文化財のみならず、意匠部品や工芸分野での応用も期待される。「実物1点=データ1点」という設計思想は、今後のデジタルツインや真正性証明の在り方にも示唆を与える取り組みである。
用語解説
| ■ 3D Gaussian Splatting 多数の写真データから対象物の三次元構造を再構築する技術。点群をガウス分布として表現し、高速かつ高精細に立体形状や質感を可視化できる手法として注目されている。 |
| ■ ブロックチェーン 分散型台帳技術の一種で、データの改ざんが極めて困難な仕組みを持つ。デジタル資産の所有証明や取引履歴の透明化などに活用される。 |
| ■ デジタルアーカイブ 文化財や資料などをデジタルデータとして保存・管理する仕組み。近年は三次元データ化により、形状や質感まで含めた保存が可能になっている。 |
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