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文化財を3Dスキャニング。フルカラー3Dプリンターで展示物として出力(秩父神社/原製作所)

博物館の展示物や文化財を3Dプリンターで造形する取り組みが本格化している。土器や彫刻などの物品以外にも、3Dスキャナーで建築物やその装飾を取り外したり傷つけることなく、データ化し業務用3Dプリンターで造形できることは文化財の保存や展示に大きな可能性を開いた。細かな形状だけでなく、色彩まで正確に再現できるフルカラー3Dプリンターの機能向上でローコスト短納期での展示物の調達が可能に。先端事例として、秩父神社の事例を紹介したい。

秩父神社の「つなぎの龍」

秩父三社の一社である秩父神社(埼玉県秩父市)では、創建2100年奉祝事業である本殿の改修事業(彫刻の塗り直しが主)が2018年より約5年かけて大規模に行われている。秩父神社には、日光東照宮の 『眠り猫』 を手がけた江戸時代の彫刻職人・左甚五郎による『つなぎの龍』という彫刻作品が掲げられている。

創立2100年を迎える栃木神社の社殿を飾る『つなぎの龍』

鮮やかな彩色が施された『つなぎの龍』は、社殿の中心に位置する立体的な彫刻作品だ。社殿に飾られているため、風雨や陽光で退色していくことから、一定期間ごとに修復が必要になる。こうした修復事業を行う際には、合わせて展示用の模型製作も行われることが多いが、彫刻職人の作品を模型で制作することは簡単な仕事ではない。

従来は模型製作を専門に行う現代の職人が 手作業でレプリカを製作するのが一般的だったが、今回は色彩も管理できるOBJ方式のデータに対応できる3Dスキャナーで細部までの形状と色彩をスキャニング。データ補正後にミマキエンジニアリング(長野県東御市)のフルカラー3Dプリンターで直接造形を行った。

3Dスキャニングすることで、名工の仕事を色彩までデータ化

実際にスキャニングを行った原製作所の小山 貴広氏にお話を伺った。

「いろいろなご縁があり、社殿を飾る『つなぎの龍』を3Dスキャニングして、データ化する取り組みを行いました。デジタル3Dデータのみで忠実な1/5レプリカを作成するという、前例のない製造方法です。高精度フルカラー3Dスキャン技術と高精度フルカラー業務用3Dプリンターによる造形で江戸の名工の技を復元&奉納することで、文化財をデータとして永く後世へ伝える大切貴重な資料となります」

3Dスキャニングは実際にはどのように行われたのだろうか。

「『つなぎの龍』 はすでに修復を終えて社殿に設置されている状態でしたので、設置されている壁面ごとスキャニングを行いました。ハンディータイプのスキャナーを使って、設置壁面に近づきスキャニングしています。『つなぎの龍』は立体的な彫刻作品です。手前からだけではなく、背面や上からも細部の形状を正確に計測する必要がありました。30センチほどまで接近しないと正確な形状を取得できないので、脚立を使って上にあがり、3Dスキャナーにカメラ用の一脚をつなげて、測定を行いました」

社殿に設置された状態の『つなぎの龍』を3Dスキャニングしている模様(提供:原製作所)

形状を正確に測定するためにArtec社のハンディータイプの3Dスキャナーで半日かけて撮像した他、カメラタイプのスキャナーで数時間かけて色彩情報を測定。そのデータを3Dモデルとして処理できるように1週間ほどかけて補正を行った。その結果できた3Dモデルデータがこちらだ。

3Dモデルでは、鱗や髭といった細部まで色彩とともに正確な形状が再現されている。また形状以外にも、鮮やかな彩色が3Dモデルで記録されていることがわかる。

「最近のフルカラー3Dプリンターは色彩の再現性が非常に高く、フルカラー造形するだけで、完成度が非常に高い造形物を製作することができます。そのため形状を再現するだけではなく、色彩も3Dモデル化し、フルカラー3Dプリンターで造形します。専門の塗装専門の職人が作業する必要がなくなるほどです」(小山氏)

フルカラー3Dプリンターで造形された5分の1モデル『つなぎの龍』

ハンディータイプの3Dスキャナーは、撮像する人によって正確な形状を再現することが難しい場合もある。また色彩は計測時の環境によって正確に測定できない場合もあるだろう。不安定な脚立の上で5メートル以上ある 『つなぎの龍』のような貴重な文化財を正確に撮像することは大変な作業だったのではないだろうか。

「安全に配慮しながら5メートル以上ある『つなぎの龍』を計測することは、簡単な作業ではありませんが、私たちはハイエースに機材を積み込んで、機密性が高い新製品や試作品などを出張スキャニングしてきた経験がありますので、問題なく対応できました。かなり小型化された3Dスキャナーをつかって計測していますが、それでもある程度の重量がありますので、半日も計測していると腕が疲れてきてプルプルと震えてきます」(小山氏)

ユーモアも交えて小山氏は回答をしてくれた。

正確に造形できる3Dプリンターがあっての3Dモデル

「正確な色彩をOBJデータでスキャニングするにもノウハウが必要です。弊社はスキャナーの特徴を踏まえて複数の方式で撮像し補正することで対応しています。また実際に用意した3Dモデルを造形できる業務用3Dプリンターがなければ、データを使った模型を用意することができません」(小山氏)

今回かなり精巧なモデルを製作しているが、どのような3Dプリンターで造形したのかも気になるところだ。小山氏によると、造形はミマキエンジニアリングが自社開発のフルカラー業務用3Dプリンターで造形したという。

「今回の『つなぎの龍』はミマキエンジニアリングさんのフルカラー業務用3Dプリンターで造形しています。ミマキエンジニアリングさんの業務用3Dプリンターは水溶性のサポート材を使っていて、水の中で溶かしながら、造形物を掘り起こしていくようにサポート材を除去できるということで、非常に精巧な形状を再現することができました」(小山氏)

ミマキエンジニアリングの業務用3Dプリンターは、スミソニアン博物館の展示物造形用にも導入されており、フルカラーでの造形では世界的な評価を得ている。この『つなぎの龍』のような文化財の展示用模型には自然な色彩の再現も求められる。従来は造形工程と塗装工程が必要で、それぞれの工程で専門の職人が手作業で対応していた。当然専門性が高い職人の作業には日数や費用が必要になる。職人の手が空いていない場合は、手番待ちも発生することだろう。こうした状況が3Dスキャニングを基に3Dモデルを用意し、業務用3Dプリンターで造形することで大きく変わろうとしている。

文化財も3Dモデルで収録し3Dプリンターで造形される時代に

山寺に設置された仏像の盗難が相次ぎ、参拝用の仏像を3Dプリンター製にする取り組みが数年前に話題になったことがあるが、文化財の保護や記録に関して、3Dスキャナーや業務用3Dプリンターが貢献できる余地は非常に大きいようだ。過去の名工が手掛けた彫刻や立体的な造形物を、その作品の形状そのままにデータ化できる3Dスキャナーで記録し、業務用3Dプリンターで造形できることで、より正確な展示用模型を安く早く用意できる時代になっている。

業界関係者によると、フルカラー業務用3Dプリンターによる造形によって、塗装工程の費用を大幅に圧縮できるため、予算に限りがある文化財の保護や展示担当者にとって心強い傾向といえるだろう。一方で、塗装を専門的に行ってきた専門業者にとっては大きな脅威でもある。専門的な技術やその背景にある経験やノウハウを活かして成長機会にできるかどうか。今後明暗が大きく分かれるところだ。

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シェアラボ編集部 | + posts

2019年の創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビュー実施。日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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