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SLMソリューションズが12基レーザー搭載の金属3Dプリンターを発表

GEアディティブの傘下でレーザーのパウダーベッド方式の金属3Dプリンターを製造するSLMソリューションズは、新しい金属3Dプリンター「NXG Ⅶ 600」を発表した。

この金属3Dプリンターは、12基の1kwレーザーを搭載し生産能力を高めたモデルで、大型の造形物の造形の高速化、連続生産での実用性が売りとなっている。造形領域は600㎜×600㎜×600㎜。現時点でレーザーを使ったパウダーベッド方式の金属3Dプリンターとしては史上最速の造形能力を持つという。(写真はSLMソリューションズのウェブサイトより)

レーザー増設で高速造形を実現

造形品質の面では既存工法とそん色ないレベルを実現している金属3Dプリンターによるモノづくりだが、大型化、高速化は継続的に求められている。

金属3Dプリンターの造形速度を高めるためには、複数のアプローチが考えられるが、パウダーベッド方式においては照射するレーザーを増設し、同時に造形することで加工時間を短縮するというアプローチが一般的で、米国陸軍からの受注を受け、3Dシステムズも9基のレーザーを備えた金属3Dプリンターの開発を進めていることを明らかにしている。

各社レーザーの複数基搭載による造形速度向上の面で血道をあげている状況の中、SLMソリューションズの新しい金属3Dプリンター「NXG Ⅶ 600」では、12基のレーザーを用いる事で、レーザー1基の同社従来機の20倍の高速造形、レーザー4基の従来機の5倍の高速造形を可能にしている。またそのビルドレートは、1000cc/hとパウダーベッド方式の金属3Dプリンターとしては突出している能力を持つ。(1時間に500㎜のペットボトル2本分の造形能力)

A BREAKTHROUGH FOR METAL ADDITIVE PRINTING AND THE START OF A NEW ERA IN MANUFACTURING.

MEDDAH HADJAR, CHAIRMAN & CEO

とSLMソリューションズのCEO自ら高らかに謳っているほどだ。

サイトで紹介されていた造形物の例
サイトで紹介されていた造形物の例(SLSソリューションズのウェブサイトより)

試作・特注品製造から量産製造に向かうためのビルドレートの壁

SLMソリューションズの既存製品
SLMソリューションズの既存製品

ではこの造形スピードを示すビルドレートはどの程度のインパクトを持っているのか。単純に既存機の4倍のスピードという点ですでに凄みが伝わってくるが、試作や特注対応で期待される製造能力と量産対応で求められる製造能力は大きく異なる。

単純に500㎜ペットボトル相当の体積を1時間かけて2本分しか造形できないといわれると生産能力が非常に少なく思える。大量生産を行う自動車業界がこの数字をどのように観ているかに関して目安を考えてみたい。

国内の展示会、インターモールド2020、オンライン講演「パワートレインに変革をもたらす、Additive Manufacturing」において、日産自動車のパワートレイン生産技術に取り組む塩飽紀之氏は、一つの目安として『大量量産車では100,000cc/h、少量生産車では10,000cc/hの造形能力が必要』とコメントしている。

日産自動車塩飽氏の資料を基にシェアラボ編集部作成
日産自動車塩飽氏の資料を基にシェアラボ編集部作成

これは従来工法の製造能力を100,000cc/hと見ているという事で、量産分野で本格活用されるには同程度の生産性があるとみなせることを意味する。同氏は造形能力(ビルドレート)とコストを軸に各方式をマッピングした図表を説明してくれていたが、軽量化、静粛化の分野で今後活用していきたいという展望が語られていた。

バインダージェット方式は脱脂、焼結等の後工程を踏まないと製造が完了しない為、単位時間当たりのビルドレートの算出の仕方には議論があるかもしれない。また紹介されていた数値の根拠になるセッティングや材質に関して気になる点は多いだろう。

しかし自動車メーカーの開発部門関係者が肌感覚として今後3Dプリンターは量産に使える可能性が高いと感じ、電動化に負けない燃費向上と静粛性への要望という強い外的なプレッシャーに対して、積極的に3Dプリンターを活用していこうという姿勢をもっている事は非常に強い影響力を持つように思われる。

少量生産が加速する予感

この観点ではSLMソリューションズの新しい金属3Dプリンター「NXG Ⅶ 600」が持っている1000cc/hというビルドレートは自動車業界の量産機として主役を張る機体ではないかもしれないが、ヘリテージモデルと呼ばれる旧車の部品製造分野や、レーシングカーなどの分野では威力を発揮できるスペックだといえる。また航空宇宙の分野でも、打ち上げニーズの高まりに応える製造能力を発揮してくれるだろう。レーザーの出力向上と基数増加による速さと大きさへの対応は今後も続いていく。そうした方向性を指し示す1台になりそうだ。「NXG Ⅶ 600」の具体的な販売開始時期は未確認だが、SLMソリューションズの3Dプリンターは国内では愛知産業が取り扱っている。

編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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