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「第15回AMシンポジウム」参加報告

2025年1月24日 に東京大学生産技術研究所で「第15回AMシンポジウム」が開催され、シェアラボからは丸岡が参加した。会場とオンラインで100名以上の参加者があり、国内外の講演者による、様々な最新のAMに関する研究成果や活用例の講演と、スポンサーによる会場ブース展示があり、情報収集と人的交流の大変貴重な機会であった。その中から重要なポイントに絞り、以下に報告する。(上記画像出展:主幹・主催 一般社団法人日本3Dプリンティング産業技術協会)

AMシンポジウムとは

AMシンポジウムはこれまで年1回、通算14回開催され、国内外の産学官AM関係者が一堂に会し、情報知識交換と人的交流の場として、日本のAMの発展普及、牽引発展に寄与してきた。これまでは東京大学生産技術研究所主催で開催されてきたが、今回の開催から、プログラム委員会と運営委員会の2つの委員会により引き継ぐことになった。プログラム委員会はシンポジウムのプログラムを策定し、運営委員会はシンポジウムイベントの企画・開催・予算管理を実施し、下記2つの委員会が連携して活動する。

AMシンポジウムプログラム委員会 委員長 新野 俊樹 氏 /  副委員長 三森 幸治 氏
AMシンポジウム運営委員会    主幹・主催:一般社団法人日本3Dプリンティング産業技術協会(J3DPA: Japan 3D Printing Industriual Association)​
共催:株式会社アスペクト、Conflux Technology, Pty Ltd.、アルケマ株式会社

シンポジウムでの講演トピックス

今回の第15回AMシンポジウムは「より速く」をテーマに開催された。これはAMが今後も発展・普及していくために最も重要な課題が「速さ」と考えている背景からとのことであった。シンポジウムのプログラムは下記の通り。

講演講演者
基調講演① 「航空宇宙分野におけるAMへの期待と品質確保に向けた取り組み」国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 技術領域主幹 境野 正法 氏
講演「Additive Manufacturingの海外研究動向」
東京大学 生産技術研究所 教授 新野 俊樹 氏
テーマ講演①「AMプロセスの生産性向上 レーザー焼結を中心に」東京大学 生産技術研究所 教授 新野 俊樹 氏
テーマ講演②「Implicit modeling pros & cons(インプリシットモデリングの長所と短所)」George Allen, Technical Fellow, nTop
講演「J3DPA AM材料研究会報告〜樹脂AMの発展に向けて」(一社)日本3Dプリンティング産業技術協会 理事 毛利 孝裕 氏
講演(オンラインリモート)「Pushing the Limits of Appearance 3D Printing (3Dプリント造形物の外観限界を超える)」(ビデオ講演+リモートQ&A)Dr. rer. nat. Phillip Urban, Fraunhofer IGD
基調講演②「Multi-Laser Powder Bed Fusion research at KU Leuven (ルーベンカトリック大学におけるマルチレーザーPBF研究)」(ビデオ講演+リモートQ&A)Prof. Dr. Bey Vrancken, KU Leuven

まず、AMシンポジウムプログラム委員長 新野氏からの開会挨拶では、「AMはこれまでと様子が変わり、AMが社会に染み込んできた。娘の中学校でも使っている。一方、生産性や速さという点はこれまであまり重視されなかった」というテーマ選定理由を述べた。

宇宙航空研究開発機構 境野氏からは、航空宇宙領域での金属AM研究・適用事例が紹介された。レーザーPBF(粉末床溶融結合)方式は複雑緻密形状部品製造に、DED(指向性エネルギー堆積)方式は大型部品一体製造への適用が主流となっている。またロケットでは軽量化や部品一体化による低コスト化、人工衛星では難加工材料の製造効率化、高機能化を主に目指し、AM工法と材料を特徴に合わせて採用している。また品質保証について、鍛造に対するAMの特異性を比較で示し、サービスインまでのライフサイクル全てのステップで品質保証活動を展開しているとのことであった。最後に航空宇宙開発においてAMは無くてはならない一方、品質保証が課題で、様々な業界の協力でAMメリットを最大化することが重要と述べた。

東京大学 新野教授からは、長年継続して参加しているSolid Freeform Fabrication Symposium(アメリカ)とformnext(ドイツ)の2024年の概要や動向について報告があった。講演数は金属分野が減り、樹脂とコンポジット分野の合計が金属分野を超えたことや、地域連携、コンサルタント企業、設計から製造まで全てを受けるファウンダリ企業の出展増加、小型樹脂プリンタークラスター化で生産性向上を目指す例や、生成AIデザインの一般化で新ビジネスの可能性があることが示された。続いての講演では自らの研究として、樹脂粉末のレーザーPBF法の生産性向上を目指し、レーザー出力、積層厚さ、 ビーム径、走査速度を上げる装置及び造形条件研究の概要を紹介し、3年をかけてアスペクト社で、それらが出来る装置を開発中とのことであった。

nTop社 Allen氏は、ソフトウェア製品nTopが採用するインプリシットモデリングの数学的基礎、長短所の説明と、長年にわたり普及してきた境界表現技術(B-rep)の課題を解決するだけでなく、nTop Core APIによるCAD、CAE、AMとの接続性が生む新しい可能性について紹介した。

日本3Dプリンティング産業技術協会 毛利氏からは、協会の概要と、材料研究会活動報告として、ユーザーとベンダーが集まり、ユーザとベンダーの間にあるギャップの可視化を目的とした、パネルディスカッションの結果概要報告があった。AMの改善に対する期待におけるユーザーとベンダーの違いなどが例として示され、最大の共通課題はコストであるが、ユーザー、ベンダー共同で改善目標を絞り込み、取り組むべき課題を特定することが必要であること、皆でロードマップを作る必要があるとの提言があった。

Fraunhofer Urban 氏からは、需要が多いが、現状熟練者による手作業で製造され、高いコストが課題となっている義眼について、実際の目のCTデジタルスキャニングデータから、表面だけでなく、表層の透過色を含めた3D形状設計が出来る専用ソフトウェア「cattlefish eye」とMJT(材料噴射)法樹脂フルカラー3Dプリンターにより、非常に自然な見た目の義眼を作る事例が紹介された。

KU Leuven Vrancken 教授からは、同大学が創立600年、AM研究は1990年から行っている歴史から、 金属レーザーPBF装置において2本のレーザースキャンを使う研究報告があった。1本しか使えない装置の場合、2回スキャンすることで平滑表面を得る方法の紹介があった。また2本同時に使える場合は追従スキャンで、条件によりオーステナイト組織を増やせた例と、スポットを並列してスキャンすることで、レーザー1本より2.4倍の生産性を得た例が紹介された。

シンポジウム参加を終えて

本シンポジウムは歴史が長く、国内外研究者の最新研究や活用事例を学ぶことが出来る貴重な機会であり、今回も同様に金属、樹脂、ソフトウェアと幅広く、かつAMの量産への活用需要増加に対応し、「速さ」をテーマにした講演を聞くことができ、大変有意義であった。また今回から運営体制が変わり、より良いシンポジウムが継続開催される体制が整備されたと感じた。来年第16回も同じ東京大学生産技術研究所で開催の予定とのことで、日本国内の特に若い研究者にも多く参加していただき、日本でのAM関連研究の進展と、産学官交流のきっかけの場として、多くの方が参加されることをお勧めしたい。

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設計者からAMソフトウエア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、AMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしていきます。

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