Formnext Asia Shenzhen 2025 取材報告~アジアがAM業界を牽引する時代へ

2025年11月4日

2025年8月26日(火)〜2025年8月28日(木)に中国の深圳で開催されたFormnext Asia Shenzhen 2025。前年比78%の来場者増(主催者発表)という賑わいで幕を閉じた展示会だが、主催者からの招待を受けてシェアラボ編集部から衛藤が現地取材を敢行した。独自の発展をすさまじい勢いで遂げている中国AMの展示会で体感したエネルギーと最新情報をご報告したい。

数字で読み解く成長の軌跡

2025年のFormnext Asia Shenzhenには20,715名が来場し、前年比78%増という成長を記録した。この数字の背景には、中国政府の製造業高度化政策と、民間企業の積極的な設備投資が合致した結果がある。

国際来場者は158%増の733人で、アジア太平洋地域はもちろん、ヨーロッパ、北米からの参加者が急増している。これは中国が単なる「安価な製造拠点」から「イノベーション創出の中心地」へと変貌しつつあることを示している。

材料系の出展社も増加したと報告がある。材料技術こそがAM産業の基盤であり、その出展者数の増加は技術エコシステムの成熟を意味する。

また、20,000㎡の展示スペースの70%が早期に予約完売となったことは、出展企業の強い期待と確信を表しているのではないか。

それではFormnext(Frankfurt)やFormnext Asia Tokyo Forumと比較してFormnext Asia Shenzhenの成長が如何に凄いのかみてみよう。

<Formnext Asia Shenzhen 2025>

年度出展社数来場者数(3日間)前年比来場者数1日平均来場者
2025年265社20,715名78%増6,905名

<Formnext(Frankfurt)2024>

年度出展社数来場者数(4日間)前年比来場者数1日平均来場者
2024年864社34,404名4.3%増8,601名

リブランドなどによる展示会の性質変化などがあるが、それを考慮してもこの数字からFormnext Asia Shenzhenの躍進と来場者からの期待感がわかると思う。

会場で感じた「熱狂」の正体

午前9時の開場と同時に会場に駆け込む来場者たち。技術セミナー会場は多くが満席で、立ち見が出る場合もあった。

各ブースでは「その場でCADファイル受取」、「即座に受注が決まった」という話が聞かれ、日本の展示会のような「後日検討」や「様子見」ではなく、リアルタイムでビジネスが動いている現場だった。

会場で最も印象的だったのは、重厚な産業用プリンターと、3Dプリントシューズや3Dプリント寝具、カラフルなおもちゃ、フィギュアのような造形品を展示するコンシューマー向けのビジネスが混在して出展している光景だ。

写真:3Dプリントシューズ(PolyPolymer)(撮影:シェアラボ編集部)

写真:3Dプリンター製寝具(PolyPolymer)(撮影:シェアラボ編集部)

「数千台」の3Dプリンターを活用している3Dプリントファームがおもちゃなどを展示したり、3Dプリントシューズや3Dプリント寝具を展示したりしているすぐ近くで、航空宇宙部品を手がける企業が最新の金属プリンターを披露する、この異業種混在こそが、展示会の熱気を倍増させ、単なる機器の情報を得るための展示会ではなく、来場者に3Dプリンター業界自体の未来への期待感やビジネスとしての匂いを提供している。この「エンターテイメント性」が、硬くなりがちなB2B向けの展示会に新鮮な空気を送り込んでいる。

3Dプリントファームの展示ブースにはおもちゃ

写真:3Dプリントファームの展示ブースにはおもちゃが並ぶ(撮影:シェアラボ編集部)

産業用技術をコンシューマー市場に応用する企業群の存在は、3Dプリンティング技術の「民主化」を象徴している。高精度な産業用技術が、おもちゃ製造や個人向けサービスに応用されることで、技術の裾野が劇的に広がっている。この多様性こそが、中国のAM業界の真の強さなのかもしれない。

このような展開を展示会主催者が意図的な戦略として考えているならば素晴らしい組織だと思うし、膠着した日本の展示会も見習う必要があるだろう。

材料系出展者68%増の意味

3Dプリンティング技術の真の価値は、「何を作れるか」よりも「何で作れるか」にある。材料技術の進歩こそが、AM技術の応用範囲と品質を決定する最重要要素だ。今回の展示会で材料系出展者が68%増となったことは、中国のAM材料産業が臨界点を超えたことを意味する。川上(材料)から川下(最終製品)まで一貫したエコシステムが構築されつつある。自動車用途、航空宇宙用途、特殊合金類まで、幅広い金属粉末技術が展示された。Acc Material、CNPC POWDER、Grinm Additive、Tiangong Technology等の企業が、国際競争力のある技術を披露していた。

新エネルギー・電子技術向け特殊セラミックの展示は、従来の金属・樹脂中心だったAM業界の新たな可能性を示している。高性能ポリマーは、3Dプリントファーム業界で急成長中の主要材料として位置づけられ、コンシューマー市場での大量生産を支えている。

材料やドライボックスで名を馳せるSANLU(撮影:シェアラボ編集部)

多色展開で目を惹くkexcelled(撮影:シェアラボ編集部)

主催者の力量が生み出すイノベーション環境

今回のFormnext Asia Shenzhen 2025で特筆すべきは、主催者であるMesse Frankfurtと香港生産力促進局(HKPC)が築いた戦略的パートナーシップである。HKPCは1967年に法令により設立された香港の多分野組織で、約60年にわたり香港企業の生産性向上を支援してきた実績を持つ。今回、HKPCは初めて技術パートナーとして参画し、展示会に新たな次元をもたらした。

HKPCのエドモンド・ライ氏は、開会式での基調講演で、中国のAM産業の急速な成長について「この業界は過去10年で30倍に成長してきており、私たちはR&Dから商用化までの段階で企業をサポートすることを 3D Printing Industry目指しています」と語った。

またMesse Frankfurtがヨーロッパの有力企業と築いた「相互支援の深い絆」は、単なるライセンス提供を超えた技術協力関係を生み出している。Formnext Frankfurtで培われた知見とネットワークが、アジア市場に最適化された形で提供されることで、参加企業は欧州と中国の両方の技術エコシステムにアクセスできる。

グローバル企業が見た中国市場

世界的IT企業であるHPが、研究用プリンターのアジア初導入先として中国を選んだ背景には、技術者の質の高さと市場の成長性への確信がある。

HPが中国市場に注力する理由は明確だ。中国は世界最大の製造市場であり、年間12兆ドル規模の製造業のほぼ半分をアジア太平洋地域が占める。

中国企業の位置づけは、従来の「安価な製造委託先」から「イノベーションパートナー」へと大きく変化している。HPは単に設備を販売するだけでなく、現地企業と共同で応用研究を進め、材料開発から最終製品の品質管理まで、包括的な技術移転を行っている。この「技術共創」のアプローチこそが、HPが中国市場で成功している鍵となっている。

AI×3Dプリンティングの未来図

AI技術と3Dプリンティングの融合は、単なる技術革新の域を超え、製造業のパラダイムシフトを引き起こしている。今回の展示会で注目されたのは、AI駆動の品質管理システムが既に「研究段階」から「実用段階」へと移行していることだった。

AI技術の導入により、造形プロセスのリアルタイム監視と品質予測が可能になっている。機械学習モデルは、3Dプリンター上に固定されたカメラからのビデオストリームを分析し、様々なサイズ、形状、色、材料、照明、設定の欠陥をリアルタイムで検出する。

さらに革新的なのは、異常検知システムである。このシステムは、目視検査では捉えられない非常に微妙な問題を検出し、プリンターのメンテナンスをプロアクティブにスケジュールすることで、ダウンタイムを削減する。デジタルツイン技術と組み合わせることで、印刷プロセスの正確なシミュレーションと、実際の印刷物のリアルタイム品質監視が同時に実現している。

配信者が変える展示会の概念

会場で日本では見ない変わった光景を目にした。ブースの情報をLive配信してリアルタイムにネットで販売している配信者の存在だった。日本のB2B展示会では考えられない光景だ。Formnext Asia Shenzhen 2025はB2B展示会であるためコンシューマービジネスをしているブースに数名が居ただけだが、B2Cの展示会では数多くの配信者が会場からLive配信しながらリアルタイムに紹介した商品をネットで販売しているらしい。

今後はB2B分野でも、この革新的手法が確立された重要な新チャネルになる日が来るのかもしれない。

従来の展示会は年に一度、3日間の限定イベントだった。しかし中国の配信者たちは、展示会で得た素材を元に年間を通じてコンテンツを制作し続ける。会場での実演動画、技術者インタビュー、競合製品比較、これらすべてが「展示会のデジタル延長」として機能している。

中国の工場オーナーたちがTikTok、Instagram、WeChatでバイラルアカウントを作成し、高額な展示会や卸売市場ブース以外で製造業者が個性を発揮して新顧客にリーチしている。高額な手数料・広告費に投資する従来手法に代わる、低コストで高リーチの新手法として確立されている。

SANLUのブースでは中国らしいLive配信が行われていた(撮影:シェアラボ編集部)

中国系企業のダイナミズムと日本との違い

展示会場を歩きながら痛感したのは、日本とのスピード感の圧倒的な差だった。中国企業が「来月から量産」を語る間に、日本企業は「来年度の予算で検討」を口にする。そして最も衝撃的だったのは、配信者を活用したリアルタイムマーケティングへの取り組みの差だった。中国企業は展示会会場で配信者と連携し、その場で数十万人の視聴者に向けて商品をアピールしていた。一方、日本企業の多くは「展示会は名刺交換の場」という従来の概念から抜け出せずにいる。この認識の差が、将来的に取り返しのつかない格差を生むのではないか。

失敗を恐れない果敢な投資マインド、技術者の現場判断権限の大きさ、「とりあえずやってみる」カルチャー、配信者との連携によるリアルタイム販売戦略、政府・企業・学術機関の密な連携。

それでも残る日本の強みは、精密加工技術への深い理解、品質管理・品質保証のノウハウ

長期的視野に立った技術開発、安全性・信頼性への徹底したこだわり。

しかし、これらの強みも、デジタルマーケティングとスピードという武器の前では霞んで見えるのが現実だった。

日本の展示会を取材してきた経験と比較すると、最も大きな違いは「展示会に対する認識」にあった。日本では「年に一度の情報収集・名刺交換の場」として位置づけられることが多いが、中国では「リアルタイムビジネス創出の場」として機能している。

日本の産業用展示会では、出展企業の業界が明確に区分けされる傾向が強い。しかし深圳では、おもちゃ製造の3Dプリントファームと航空宇宙部品メーカーが同じフロアで出展し、互いに刺激し合っている。この「業界の垣根を超えた交流」が、予想外のイノベーションを生み出している。

また配信者との連携も意外だった。日本の展示会では「撮影禁止」「SNS投稿自粛」といった制約が多いが、中国では逆に配信者を受け入れ、リアルタイム販売のパートナーとして活用している。展示会場が「配信スタジオ」と化し、その場で多くの視聴者に向けて商品アピールが行われる光景は、日本では考えられない。

商談の進み方も根本的に異なる。日本企業が「持ち帰って検討」「来年度の予算で」という慎重なアプローチを取る間に、中国企業は「来月から導入」「明日CADデータを送る」と即座に決断を下していく。この意思決定スピードの差が、展示会全体の熱気につながっている。

日本では各セクターが独立して活動することが多いが、中国では政府の産業政策、企業の技術開発、大学の研究が密接に連携している。展示会でも、政府関係者、企業トップ、研究者が同じテーブルで具体的なプロジェクトを議論している光景を頻繁に目にした。

日本の展示会では完成度の高い製品・技術のみが展示される傾向があるが、中国では「開発中」「アイデア段階」の技術も積極的に展示される。この「とりあえずやってみる」文化が、来場者との活発な議論を生み、新たなアイデアの種となっている。

日本では展示会が終わると一旦活動が止まりがちだが、中国では展示会がスタート地点となる。配信者による継続的な情報発信、政府による産業化支援、企業間の継続的な技術交流。展示会で始まった関係が年間を通じて発展し続ける仕組みが構築されている。

100%を目指す日本と、今できることでビジネスを創出していく中国との文化の違いを目の当たりにした感じだ。

2026年への期待と課題

Formnext Asia Shenzhen 2025の成功を受けて、2026年8月26-28日に開催される次回展示会への期待は高まっている。しかし、その期待と同時に、中国および世界のAM業界が直面する課題も明確になってきた。

複数の市場調査会社による予測では、グローバルAM市場は2025年の約250億ドルから2032年には1,200億ドル以上に成長すると見込まれている。年平均成長率(CAGR)は20-25%と予測されており、特にアジア太平洋地域が最も高い成長率を示すとされている。

2025年の産業用プリンター販売15%成長予測の根拠は、主に以下の要因にある。

第一に、中国国内市場の急速な拡大である。中国は「Made in China 2025」戦略の一環として3Dプリンティングなどの先端技術への投資を増やしており、製造業の競争力向上を図っている。Materialiseが中国の製造企業を対象に実施した調査では、30%の企業が「3Dプリンティングが従来の製造方法よりも重要になる」と回答している。

第二に、東南アジア市場への展開である。中国からの3Dプリンター輸出は2021年に約300万台に達し、2020年から13%増加した。2022年の最初の3四半期では、輸出台数は約100万台で、2021年の同時期と比較して25%増加している。

CONTEXTの市場調査によると、中国ベンダーからの金属LPBF出荷は2024年第1四半期に前年同期比45%増加しており、産業用プリンター販売は2025年に15%成長し、2021年レベルへの回復を示すと予測されている。

アジア太平洋地域は予測期間中(2025-2032年)に最も高いCAGRを記録すると予測されている。この成長は、製造業界の主要プレイヤーが追求する継続的な開発とアップグレードに起因している。アジア太平洋地域は、自動車、ヘルスケア、消費者電子機器産業の製造ハブとして台頭しており、急速な都市化も予測期間中の3Dプリンティング採用を促進する重要な役割を果たすと予想される。

最近の戦略的産業シグナルの分析では「産業規模AMへの道は、ますますアジアを通過する」と強調され、グローバルリーダーシップのダイナミクスが再構築されている。これらのトレンドは、フルバリューチェーンアプローチ、エコシステム協力、産業規模イノベーションを強調するFormnext Asia Shenzhenのプラットフォームが、特にタイムリーで不可欠である理由を裏付けている。

2026年に向けて、いくつかの技術革新の方向性が明確になっている。第一に、AI統合のさらなる深化である。機械ビジョン、リアルタイム欠陥検知、予測保全、生成デザインなど、AIがAMプロセス全体に統合される流れは加速するだろう。

第二に、マテリアルイノベーションの継続である。2025年展示会で材料関連企業が大幅に増加したことは、この分野の重要性を示している。新エネルギー・電子技術向け特殊セラミック、高性能ポリマー、特殊合金など、材料技術の進歩がAM技術の応用範囲を決定する。

セラミックス材料(撮影:シェアラボ編集部)

第三に、大量生産への移行である。3Dプリントファームモデルの成功は、AMが試作から量産へと移行していることを示している。2,000以上のアクティブな3Dプリントファームを持つ中国では、このトレンドがさらに加速すると予想される。

成長に伴う課題も山積している。

第一に、国際標準との整合性確保である。中国のAM業界が世界市場でリーダーシップを発揮するためには、国際的な品質基準や安全基準との整合性が不可欠である。

第二に、人材育成とスキルアップの必要性である。AM技術の急速な発展に対応できる人材の育成が追いついていない。設計、材料工学、プロセス最適化、品質管理など、多様な専門知識を持つ人材が求められている。

第三に、サプライチェーン統合の複雑性である。材料サプライヤー、機器メーカー、ソフトウェア開発者、後処理サービスプロバイダーなど、AM エコシステム全体の統合は依然として複雑な課題である。

第四に、知的財産権の保護である。デジタルファイルから直接製品を製造できるAMの特性は、デザインの盗用や不正コピーのリスクを高める。香港が持つ知的財産保護の専門性をGBA全体に展開することが重要となる。

環境への配慮も重要な課題である。グレーターベイエリア(GBA)では、太陽光発電、水素エネルギー、エネルギー貯蔵などの産業チェーンを積極的に育成している。グリーンビルディングやエコ交通の基準も強化されており、香港はアジアのグリーンファイナンスハブとしての地位を固めている。

AMにおいても、材料の再利用率向上、エネルギー効率の改善、廃棄物削減など、持続可能性への取り組みが加速している。

2026年8月26-28日に開催されるFormnext Asia Shenzhen2025では、これらの課題にどのように対応しているかが明らかになるだろう。市場規模のさらなる拡大、新技術の実用化、国際協力の深化、人材育成プログラムの充実など、多くの進展が期待される。

アジアがAM業界のグローバルリーダーとなる道筋は明確になっている。技術革新、市場規模、製造エコシステムの完成度、政府の戦略的支援、すべての要素が揃っている。残る課題は、この勢いを持続可能な成長につなげることである。2026年の展示会は、その進捗を測る重要なマイルストーンとなるだろう。

深圳の会場を歩きながら感じたのは、単なる「展示会」を超えた産業革命の現場だ。来場者の真剣な表情、出展者の自信に満ちた説明、そして会場に溢れる「未来への確信」。

アジアがAM業界を牽引する時代は、もはや「予測」ではなく「現実」となっている。2026年8月26-28日、再び深圳で開催される次回展示会では、さらなる進化を遂げた技術と、さらに拡大した市場規模を目撃することになるかもしれない。

イタリア、ドイツ、韓国など各国から招待された記者との記念撮影

システム開発会社のエンジニア、WEB制作会社のディレクターなどを経て独立。現在は企業コンサルティング、WEBサイト制作の傍ら3Dプリンターをはじめとしたディープテック分野での取材・情報発信に取り組む。装置や技術も興味深いけれど使いこなす人と話すときが一番面白いと感じる今日この頃。

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