米国のスタートアップKuprosは、一般的なFDM/FFF方式3Dプリンターで造形できる銅系導電性フィラメント「Cu29」の開発を進めている。構造用樹脂と組み合わせて造形することで、部品内部への配線やセンサー、アンテナなどの電気的機能の組み込みを可能にする材料だ。同社はさらに、宇宙用途を想定した「Cu29 Space」や、造形性を改善した第2世代「Cu29 V2」の開発・展開も進めている。
目次
一般的なFDM/FFF装置で導電経路を造形
Cu29は、銅を配合した全金属系の導電性フィラメントである。純銅を造形する材料ではなく、FDM/FFF方式の3Dプリンターから押し出せる導電材料として設計されている。
主な用途は、金属部品そのものを造形することではなく、樹脂製部品への電気的機能の組み込みだ。構造用樹脂とCu29をマルチマテリアル造形することで、部品内部や表面に導電経路を形成する。
これにより、センサーや信号配線、部品形状に沿ったアンテナなどを、部品の製造工程と同時に形成できる可能性がある。従来のように平面状のPCB(プリント基板)へ電子部品や配線を集約するのではなく、必要な位置に直接電気的機能を配置する考え方である。
Kuprosは特に航空宇宙・防衛分野での利用を見込んでおり、ワイヤーハーネスやコネクターの削減、構造部品への状態監視センサーの組み込みなどを用途として挙げている。
米海軍の研究技術をベースに開発
Cu29の基礎技術は、米海軍の科学者・エンジニアであるHarrison Holmes氏の研究にさかのぼる。
Holmes氏はOptomecやNano Dimension、nScryptなどの積層型エレクトロニクス装置に取り組む中で、銀インクを用いる既存方式とは異なる導電材料のアプローチを提案した。この研究は2017年、米海軍研究局(ONR)のDesign Innovation Awardで最優秀論文に選ばれたという。
Kupros創業者のIan Ramsdell氏は2021年、米国防総省のスタートアップ支援プログラムを通じて同技術のライセンスを取得し、Cu29の事業化に着手した。
開発初期には「銅は3Dプリントできない」と専門家から否定的な意見も受けたというが、技術そのものはすでに米軍による研究で一定の検証が行われていた。
NASAやBoeingなどが開発段階で予約注文
Cu29は製品化前から航空宇宙・防衛関連企業などの関心を集めた。
Ramsdell氏は2022年、米陸軍のxTechファイナリストとしてDMCカンファレンスに参加し、NASA、Northrop、Boeingから前払いによる予約注文を獲得したという。その後、KBR、米陸軍DEVCOM、複数の大学からも予約注文が入ったとしている。
材料開発が完了する前から顧客が代金を支払ったことは、積層型エレクトロニクスにおける導電材料への需要の大きさを示す事例といえる。
300ドル未満のデスクトップ3Dプリンターでも造形
Cu29の特徴の一つが、専用の高額装置を必要としない点だ。
従来の積層型エレクトロニクスでは、数十万~数百万ドル規模の専用設備が使われるケースもある。一方、Cu29は一般的なFDM/FFF方式3Dプリンターで使用できるよう設計されている。
Ramsdell氏によると、300ドル未満のデスクトップ3DプリンターやBambu Lab A1 Miniでも造形を行っており、Prusa XLについても推奨プラットフォームとして評価を進めている。
使用にあたってはスチール製ホットエンドが必要となるものの、大幅なプリンター改造は不要としている。またKuprosによれば、造形した導電体はプリント後すぐに機能し、焼結、めっき、硬化、化学洗浄といった後処理も必要ないという。
ただし、Cu29は金属製の立体部品を造形する材料ではない。現時点では導電経路を樹脂構造に組み込むことを主眼としており、デュアルエクストルーダーやIDEX方式などによるマルチマテリアル造形が想定されている。
12,500V、600A超の通電試験を実施
KuprosはCu29について、高い導電性能を示す試験結果も公表している。
初期の高電圧試験では12,500Vを印加しても材料が破壊されず、その後のスーパーキャパシターバンクを使用した試験では、短い試験片に推定600Aを大きく超える電流を流しても破壊には至らなかったとしている。
また同社は、一般的なポリマー系FDM/FFF導電性フィラメントと比較して、Cu29は48,000%高い導電性を持つと主張している。
ただし、これらはKuprosによる暫定的な試験結果であり、現時点では第三者機関による独立した検証結果ではない点には注意が必要だ。
同社はRAPID+TCTで「TCT Materials Award」も受賞している。
宇宙向け「Cu29 Space」と第2世代「Cu29 V2」も開発
Kuprosは現在、宇宙用途を想定した「Cu29 Space」の開発も進めている。
Cu29 Spaceでは、スズ系導体で問題となる「スズウィスカー」への対策を重視している。スズウィスカーは、導体表面から成長した極細の金属結晶が隣接する配線に接触し、短絡を引き起こす現象である。
特に修理が困難な宇宙機では重大な故障原因となる可能性があるため、KuprosはCu29 Spaceをウィスカーの発生を抑える材料として開発している。同社によれば、一般的なFDM装置で0.2~1.2mm幅の導電パターンを形成でき、電力用導体、非平面エレクトロニクス、埋め込みセンサー、アンテナなどへの応用を想定している。
さらに同社は2026年8月2日、「Cu29 Version 2(Cu29 V2)」を発表した。初代Cu29の約1年間にわたる造形、試験、製造、顧客からのフィードバックを反映し、材料配合を見直したものだ。
社内試験では、造形性や押出挙動、プロセスの安定性、FDM/FFF装置での扱いやすさなどが改善したとしている。
編集部コメント
FDM/FFF方式による電子回路形成では、カーボンなどを混合した導電性樹脂フィラメントが以前から存在する。しかし、導電性の低さから用途は限定的であり、本格的な電力供給や電子回路への応用には課題があった。
Cu29が興味深いのは、一般的なFDM/FFF装置で扱えるフィラメントという手軽さを維持しながら、より高い導電性能を狙っている点である。特に構造用樹脂と同時造形し、部品内部に配線やセンサー、アンテナを組み込むという考え方は、3Dプリンティングによる「形状の製造」から「機能を持つ部品の製造」への展開につながる。
一方、12,500Vや600A超、既存導電性フィラメント比48,000%という数値はいずれも同社による試験・主張であり、現段階では慎重に見る必要がある。第三者による検証や、実際の抵抗率、長期信頼性、曲げや熱サイクルに対する耐久性などが今後明らかになれば、Cu29の実用性をより具体的に評価できるだろう。
用語解説
| Cu29 |
|---|
| 米Kuprosが開発する銅系導電性フィラメント。一般的なFDM/FFF方式3Dプリンターで押出造形でき、構造用樹脂と組み合わせることで部品内部や表面に導電経路を形成することを目的としている。純銅を造形するフィラメントではなく、電子機能の埋め込みを主用途とする。 |
| 積層型エレクトロニクス |
|---|
| 3Dプリンティングなどの積層造形技術を利用して、導電配線、センサー、アンテナなどの電子機能を部品の表面や内部に形成する技術。機械部品と電子回路を一体化できる可能性があり、航空宇宙、自動車、ロボットなどへの応用が研究されている。 |
| IDEX |
|---|
| Independent Dual Extruderの略。2つのエクストルーダーを独立して動かせるFDM/FFF方式3Dプリンターの構造。異なる材料を切り替えながら造形できるため、構造用樹脂と導電材料を組み合わせたマルチマテリアル造形などに利用できる。 |
| スズウィスカー |
|---|
| スズを含む金属表面から自然に成長する、非常に細い針状の金属結晶。隣接する導体同士を橋渡しすると短絡を引き起こす可能性がある。修理が難しく高い信頼性が求められる人工衛星や宇宙機では、特に重要な故障リスクの一つとされる。 |
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