ミズーリ大学、脳の質感・電磁特性まで再現する3Dプリント脳ファントムを開発

2026年4月20日
出典:Abbie Lankitus、ミズーリ大学
出典:Abbie Lankitus、ミズーリ大学

ミズーリ大学の研究チームが、人工的なヒト脳ファントムの3Dプリントに成功した。単なる外観の再現にとどまらず、機械的な柔らかさや電磁的特性まで模倣した点が特徴である。神経疾患の研究や医療トレーニング、さらには個別化医療の実現に向けた基盤技術として注目される。

実物に近い特性を持つ脳モデル

今回開発された脳ファントムは、現時点では実際のヒト脳の約15%のサイズであるが、研究チームは1年以内に実物大モデルの開発を目指している。特徴は、見た目だけでなく「触ったときの感触」や「電磁波への応答」まで再現している点にある。よって、従来のシミュレーションでは難しかった実験が可能になるということだ。

この3Dプリント脳モデルは、実際のヒト脳の15%の大きさである。(出典:Abbie Lankitus、ミズーリ大学)
今回の3Dプリント脳モデルは、実際のヒト脳の15%の大きさ。(出典:Abbie Lankitus、ミズーリ大学)

不均質な脳構造を再現する新しい造形手法

従来の軟組織モデルは内部構造が均一になりがちであり、実際の脳のような複雑な構造を再現できていなかった。これに対し、今回採用されたのが「埋め込み型3Dプリント」である。ゼリー状の支持材の中で造形を行うことで、部位ごとに異なる硬さや、脳特有のしわや溝といった構造を再現できる。この手法で生体組織の持つ「不均質性」を物理的に再現することが可能となった。

埋め込み型3Dプリントにより、モデルに部位ごとの異なる硬さを持たせることが可能である。(出典:Abbie Lankitus、ミズーリ大学)
埋め込み型3Dプリントにより、モデルに部位ごとの異なる硬さを持たせることが可能である。(出典:Abbie Lankitus、ミズーリ大学)

カスタム材料で灰白質・白質を再現

本研究の中核には、専用に開発されたカスタムインクがある。論文で明らかにされた主材料は光架橋性のポリビニルアルコール(PVA)メタクリレートで、UV光によって硬化させて形状を固定する。これをベースに、機械特性・熱特性・誘電特性を調整できる点が特徴である。インクの組成を変えることで、脳の主要構成である灰白質と白質の挙動を再現可能となっている。単なる形状モデルではなく、機能的な挙動を持つ実験モデルとして活用できる点が大きい。

医療・研究への広範な応用

今回の脳ファントムは、複数の分野での活用が期待される。医療教育では、リアルな脳モデルを使ったトレーニングにより、実患者に触れる前の技能習得が可能になり、個別化医療では、MRIやCTデータから患者ごとの脳モデルを作成し、治療計画の精度向上に寄与する。また、医療機器や電子機器が脳に与える影響評価、さらにはアルツハイマー病や外傷性脳損傷などの神経疾患研究にも活用が見込まれる。

ムジタバ・ラフィーク・ゴト(左)とクリストファー・オブライアンは、3Dプリント工程で使用するコンピュータモデルの準備を行っている。(出典:Abbie Lankitus、ミズーリ大学)
ムジタバ・ラフィーク・ゴト(左)とクリストファー・オブライアン(右)は、3Dプリント工程で使用するコンピュータモデルの準備を行っている。(出典:Abbie Lankitus、ミズーリ大学)

研究の位置づけ

本研究は、学術誌『Materialia』に「3D-printing soft tissue phantom models from photo-crosslinkable poly(vinyl alcohol) methacrylate」として掲載されている。生体組織の複雑な物性を再現できる3Dプリント技術は、今後の医療・バイオ分野において重要な役割を担うと考えられる。

編集部コメント

今回のポイントは「見た目の再現」から「物性の再現」へ進んでいる点である。特に誘電特性まで再現している点は、医療機器やウェアラブル機器との相互作用評価において重要であり、単なる教育用途にとどまらない。製造業の視点で見ると、これは“材料設計×プロセス制御”の典型例であり、機能分布を持つ部品を一体造形する考え方は、今後のAM活用の方向性とも重なる。今後、実物大モデルが完成すれば、医療分野における試験・評価の在り方を変える可能性がある。

用語解説

■ ファントム(Phantom)
医療・研究分野で使用される試験用モデルのこと。実際の生体組織の物理的・電気的特性や画像特性を再現し、実験や装置評価に用いられる。
■ 埋め込み型3Dプリント(Embedded 3D Printing)
ゼリー状などの支持材の中で造形を行う3Dプリント手法。柔らかい材料でも形状を崩さず造形でき、複雑な内部構造や異なる硬さの分布を再現できる。
■ 灰白質・白質
脳を構成する主要な組織。灰白質は神経細胞体が多く情報処理を担い、白質は神経線維によって信号伝達を行う役割を持つ。

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