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『建設用3Dプリンター』の社会実装に向けて。ポリウス×前田建設工業による共同実証実験の取材レポート

以前、ご紹介させていただいた建設土木分野のスタートアップ、株式会社Polyuse(以下、ポリウス)が、前田建設工業株式会社(以下、前田建設工業)とともに、建設用3Dプリンターを活用して土木構造物の施工を実施した共同実証実験を行った。

今回は、6/3(木)開催の同共同実証実験にご招待いただき、茨城県取手市にある前田建設工業ICI総合センター敷地内のICI CAMPにて、ポリウスや前田建設工業に取材させていただいた様子をレポートさせていただく。
(写真は、ポリウスより提供)

建設現場に即した技術開発を進めるポリウス

ポリウスという企業に馴染みの薄い方向けに、改めて同社をご紹介させていただく。

同社は建設業界をテクノロジーの力でアップデートすべく、シンプルな操作で安全かつ実用性のある技術開発から建設現場への導入支援、また建設現場に必要な機能やサービスの開発・運用までを専門チームで取り組むベンチャー企業だ。

同社プロダクトの特徴として、現場の建設従事者(アルバイトの方でも!)に実際に使っていただける建設用3Dプリンター、ソフトウェア作りがある。土木分野の課題を堅実に解決することを目指し、現場の声を吸収・反映しながら製品開発を急速に進めている注目のスタートアップ企業だ。直近は、3Dプリンターを用いて集水桝を始めとした実活用される土木構造物の構築、社会実装を目指している。

建設用3Dプリンターを目の前で!共同実証実験の模様

【共同実証実験の背景】
日本独自の建設現場の環境に即した建設用3Dプリンター、ソフトウェアや専用素材などを提供できるといった点で独自の強みを持つポリウス。長きに渡り、建設業界にて施工、施工関連業務を実施し、近年では総合インフラサービス企業への変革を目指し、多様化する社会課題の解決に向けたオープンイノベーションを活発に実施している前田建設工業。そのような両企業が、実施工を行うことを通じ『建設用3Dプリンターの社会実装』に向けた歩みを、より加速していくことを目的に実施。

オープンイノベーションを加速させる場所 ICI CAMP

実証実験は、前田建設工業が保有する、茨城県取手市のICI総合センター敷地内ICI CAMPにて行われた。

ICI CAMPは、前田建設工業がポリウスを始めとしたさまざまなパートナー企業と研究・開発を行う場所だ。廃校になった小学校をリノベーションして使用されているため、教室、体育館など当時の設備がそのまま残されている部分も多く、実証実験は、かつて校庭だった場所にて行われた。

共同実証実験が行われた場所。造形物に対する直射日光を避けるため、全体をテントで被せていた。(写真は、ポリウスより提供)
共同実証実験が行われた場所。雨や直射日光を避けるため、全体をテントで被せていた。(写真は、ポリウスより提供)

UI、ハードなどさまざまな側面に配慮が行き届いた建設用3Dプリンター

当日はポリウスの建設用3Dプリンターを用い、花壇の形状物を造形していた。材料はモルタルを用い、3Dプリンターのノズル部分から何層も積み重ねた結果が見て取れた。

当日、造形された花壇。(写真は、ポリウスより提供)
当日、造形された花壇。(写真は、ポリウスより提供)

今回の造形物は、上記の写真の通り、若干のねじれを演出しているとのこと。また造形精度については、やはり普段開発を行っているラボとは気温、湿度など環境が異なるとのことだったので、理想の厚みを始めとした精度の高い造形に向けて調整を行いつつ進められていた。建設現場で用いられる機器となると、必ずしも整備されているとは限らないさまざまな現場での使用が想定されるため、どのようなシチュエーションにも対応できることを特に重視している様を伺えた。

ポリウスの建設用3Dプリンターとは

続いて、ポリウスの3Dプリンターをご紹介させていただく前に、一般的な門型3Dプリンターの大まかな作りに触れておこう。3Dプリンターには通常、横方向を示すX軸、奥行を示すY軸、縦方向を示すZ軸があり、この三軸を基準に正確な造形位置を調整し、ノズルのヘッドから材料を射出する。

ポリウスの3Dプリンターは、大きさとしては縦幅、横幅ともに人の背丈を優に超えるものであり、その範囲内であれば造形可能とのことだ。当日は3Dプリンター本体はもちろん、それを支えるソフトウェア、機器や現場に即したプロダクトならではの特徴を知ることができ、より建設用3Dプリンターの実像を垣間見ることができた。

ソフトウェアについては、マシン自体の操作や材料配合を操作、反映させる働きを持つ。当日は、PCでの操作であったが、スマートフォンの使用も可能とのこと。また、制御盤ボードなるものもご紹介いただいた。これは、モルタルを射出するノズルをコントロールする働きを持ち、その中身は独自にカスタマイズが行われているため撮影が叶わなかったが、コンピュータ機器・部品で埋め尽くされている様子を見て取れた。建設現場の従事者がどんな環境でも簡単、安全に使えるモノづくりを行うポリウスの場合、マシン・ソフトウェアが使いやすいというUI面の配慮はもちろん、それらをきちんと稼働させるハード面の知見もあってこそなのだろう。

実際の造形の様子。ノズルからモルタルが射出されている様子を見て取れる。(写真は、ポリウスより提供)
実際の造形の様子。ノズルからモルタルが射出されている様子を見て取れる。(写真は、ポリウスより提供)

また、特に印象的なのがミキサーだ。

建築物の造形には、建築材料であるモルタルが当然必要だが、そのモルタルを製造する機械であるミキサーも建設用3Dプリンターでは重要になってくる。造形までの大まかな流れとして、まず水場から水を引き、貯水槽に送る。ミキサーがその貯水槽に貯められた水を使って、砂とセメントとともに混ぜ、モルタルが完成する。このように、実際の造形までにもいくつかのステップがあり、その材料を製造するミキサーがいかに円滑に材料を供給できるかどうかも建設用3Dプリンターを現場で使えるかどうかの重要な要素である。ちなみに、建設用3Dプリンターで用いられるミキサーは海外製のものが多い傾向とのことだが、ポリウスの場合は自社でカスタマイズしているとのこと。


このように、建設用3Dプリンターは、その本体だけでなくソフトウェア、機器、ミキサーなどが集まった製品であることがお分かりいただけたのではないだろうか。製品としては、多くの構成要素から成るスケールの大きいものであるものの、ノズルを手で動かせたり、骨格の部分が頑丈だったりするので、多少手荒に使っても大丈夫とのことであった。この側面からも精密機械というよりは、建設現場での使用を志向した製品であることが分かる。

建設業界における3Dプリンター動向と今後のポリウス

造形現場の見学後は、ポリウス、前田建設工業の方から、建設業界のAM活用および今後についてお話を伺うことができた。

新しい技術を普及させるには、多様なプレイヤーを巻き込むことも重要

前田建設工業の担当者は、ポリウスのような建設現場におけるテクノロジー活用を考えるベンチャーが少ない中、さまざまなプレイヤーを巻き込むことが重要であると指摘している。

建設用3Dプリンターのようにまだ社会実装が進んでいない新しい技術の場合、ゼネコンなどが単独で研究開発を進めるよりは、官が立ち上げたロボットコンソーシアムに参加するなど、産学官共同で研究開発を進めることで社会実装化をスピードアップしつつ、国交省など重要プレイヤーを巻き込むことも大きな選択肢となってくる。

また、この”さまざまなプレイヤーを巻き込む”というテーマは、建設用3Dプリンターとともに使われる建築材料にも当てはまる。

建設業界においては主要構造物を建設する場合、その材料は建築基準法に従って日本工業規格(JIS)に適合するものでなければならない。今回の共同実証実験で用いられている材料がそれに相当するのか、という問題はもちろんある。同社担当者によるとここでも、日本コンクリート工学会、建築学会、土木学会など3Dプリンターに関連する委員会を始めとした多様なプレイヤーとともに、前田建設工業やポリウスが蓄積した知見を用いつつ新しい技術が普及するよう基準の側面から提案できないか、という動きを検討しているとのことだ。

このように普及にはさまざまな壁があるものの、建設業界における既存のプレイヤーと対立するのではなく、簡単、安心に使える3Dプリンターを実装させることを目標に、多様なプレイヤーと伴走しながら検討していくことが根幹ということだろう。

現場見学会の後の講演の様子。(写真は、ポリウスより提供)
現場見学会の後の講演の様子。(写真は、ポリウスより提供)

まずは、製品のベータ版について年内の提供が予定

ポリウスから今後の予定についてもコメントを頂いたので、最後にご紹介する。

ポリウスは今後、今回の共同実証実験を踏まえつつ、多種多様な構造物を造形しつつ社会実装メリットを作ることをゴールに据え、まずは製品ベータ版について年内の提供を目指していく。そこまでは現場目線での改善を踏まえつつ、研究開発を進める。また、同社のビジネスモデルについても触れられており、製品売り切りだけではなく、お客様のニーズに合わせた提供方法を検討している。例えば、マシン自体は安く提供し、使っていただく中で、成果が出た分に応じて課金していくというモデル等も検討しているとのことだ。


今回の機会を通じて、今後のAM活用の可能性を大いに感じさせていただくことができた。前田建設工業だけでは、製品開発において企業目線になりがちな所を、ベンチャーならではのポリウスの視点で補填していく、業界に向けた意見発信を前田建設工業が行う、現場目線でのフィードバックを行うなどそれぞれができることを最大限発揮できているオープンイノベーションの好例だとも感じた。今後もShareLab編集部では、ポリウスの動きを始め、建設業界の動向に注目していく。

前田建設工業について

1919年から続く建設会社。総合インフラサービス企業として、建築分野では、福岡ドーム、天王洲セントラルタワー、香港新空港ターミナルビル、土木分野では青函トンネル、瀬戸大橋、海ほたるなど、人々の生活を支えながら社会の発展に貢献し続けてきた企業。

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