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3Dプリンター活用とサステナブルな製造

3Dプリンター活用とサステナブルな製造

まだ発展途上中の工法であるAMにはさまざまな分野での期待がかかっている。その一つが「サステナブルなモノづくりをAMで実現したい」という期待だ。実際にAMはサステナブル対応に貢献できるのか?現状は?将来的には?と関心を持っている読者も多いことだろう。そこで「サステナブルな製造とAMの貢献余地」と題して、サステナブル分野での取り組みを取り上げながら、取り組みの背景や現状、今後を俯瞰してみた。

3Dプリンター活用がサステナブルな取り組みにどうつながる

QCDを最大化するために最適化されているのが現在の製造業で、ほかの観点を取り入れようとするとコストが嵩む。サステナブル対応がまさに好例で、例えばリサイクル可能な材料は、リサイクルのための物性を実現するために、従来の工法の際には考慮されなかった工夫が必要となる場合がある。その開発や製造には手間がかかるため、コスト高になりがちだ。

しかし経済合理性に欠くコスト高でも社会的な要請を受けて取り組む好例としては、ペットボトルのリサイクルがあげられる。バージン材を利用するほうが安価で手軽だが、社会的な要請を受けてやむなく公金を投じてでも執り行うケースはままある。

3Dプリンター活用とサステナブルな製造の取組みの背景・・・欧州を中心とした急進的な規制

まさにこうしたロジックで企業にサステナブル対応を推進させようとするのが、最近のEU圏の政策の基本にある。地球温暖化問題を深刻視して取り組みを進めている欧州では、EVシフトや炭素税が真剣に検討され、政策に反映されている。その一つが国境炭素税とも呼ばれる関税障壁だ。

個人でも法人でも、鉄鋼や肥料などの対象品目に関して、一定金額以上の価格を持つ部品や製品をEU外からEUに持ち込む際には、税関で申告が必要になる。まず部品の直接製造の際に発生したカーボンフットプリントを所定の書式で申告する制度が始まり、その後所定の関税が発生する運用が始まる。ゆくゆくは部品の「ゆりかごから墓場まで」温暖化ガス量を二酸化炭素排出量に換算して関税の対象としていく方針だということで、企業側は炭素の会計管理を余儀なくされることになる見込みだ。

サステナブル製造における既存工法の限界と3Dプリンター活用への期待

こうした政策的な圧力に対応するために、世界の企業はサステナブル対応に取り組んでいるわけだが、そもそも工場の生産ラインは無駄を嫌う。合理化を続けコストダウンや生産性向上に取り組んできた歴史がある。3R活動と呼ばれるように、再利用する、減らす、リサイクルする活動の歴史はすでに20年近く続いてきた。つまり既存のアプローチでは削減できる幅が非常にタイトであるということだ。

Reduce:材料の無駄を削減する、合理化し利用量を減らす

Reuse:捨てない(修理する)

Recycle:処分ではなく再利用する

こうした方針で、対応可能な分野は取り組みがさらに進められるだろうが、従来も行ってきた取り組みでもある。新しいアプローチでなければ改善が難しいケースではAMなどの新工法への期待がかかってくるのも当然の流れだろう

3Dプリンターを活用したリデュースの取り組み (AMとReduce)

これから始めて着手するわけでない場合、既存の手法だけでは、捨てずに再利用することも、材料を減らすことも、リサイクルすることも難しいことが多いだろう。そうした課題を背景にAM技術で従来では取り組みが難しかった再利用や利用の継続、削減、リサイクルに取り組む動きもある。

3Dプリンター活用と材料削減その1・・・加工時の材料ロスが少ない

その理由は、積層する分だけしか材料を利用しないためだ。もちろん液体材料や粉末材料は、材料タンクや造形用プールに充填した材料は時間経過で劣化するので、大型の材料タンクやプールを持つ造形機に関しては、材料の無駄や、加工時に造形物を支えるサポート構造が必要になるためロスが発生する。しかし、例えば切削時の切子に比べると、材料ロスを大きく削減できる工法だといえるだろう。

3Dプリンター活用と材料削減その2・・・ 軽量化による材料削減

AM工法は形状の自由度が高い。そのため、強度を維持した軽量化が得意な工法だ。軽量化できれば材料の利用量も減る。軽量化に取り組む取り組みとしては自動車や航空宇宙など輸送関連産業に事例が豊富だ。そもそも燃費が大きな性能として評価されることもあり、燃費改善に寄与する軽量化には大きな関心と改善のための努力が注がれてきたからだ。

部品の最適化事例として、和歌山大学のソーラーカープロジェクトの取り組みを上げておく。実に部品重量の60%削減を実現している。試験的な取り組みながら、利用する材料も減らすことができていることから、さらに多くの部品の最適化を図る方針だという。

3Dプリンター活用と材料削減その3・・・ 材料置換による温暖化ガス増加要因の削減

これまでは材料自体の利用量という観点に触れてきたが、製造業のサステナビリティ対応が必要になった直接の原因は温暖化ガスの増加を原因とする気候変動だとされている。因果関係の真偽はさておき、温暖化ガスの増加を抑制する取り組みが必要となっている。

プラスチックの処分は焼却場での焼却処分が大半を占めている。熱源として再利用されているという解釈もされているが、実質焼却処分することで、二酸化炭素の増加を招いている。その理由は石油由来の樹脂材料は自然界で分解されないため、焼却処分が最も適切とされているためだ。そこで生分解性のあるプラスチック材料に焦点が当たっている。

その代表格として3Dプリンター界隈ではPLAをよく聞くが、欧州などではコンポストでの家庭内でのゴミ処理が多いため分解処理できているだけで、実はPLAは自然界ではほぼ分解がされない。生分解性があるのは確かだが、分解酵素の量が少ない自然環境では分解ができない。そのため海洋性プラスチックなどの問題解決においてPLAへの材料置換では解決につながらず、再処理が必要になる。

こうした点を踏まえて酢酸セルロースなど自然界でも分解が進みやすい材料に注目が集まっている。

3Dプリンター活用とリユースの取り組み(AMとReuse)

製品や装置は、製造後何年間かは、補修用の部品の追加生産や在庫水準の維持が行われるが、一定期間を過ぎると製造元の手元にも在庫がなくなる。すると特定の部品の寿命が製品や装置の寿命と同義になってしまう。「この部品がないからもう使えない」となった際に、単品製造にも対応できる3Dプリンターは存在感を発揮できる。

勿論、工法が異なるため、利用の際は再評価が必要だが、利用され方がわかっている部品に関して設計面できちんとした対策を講じることができれば充分代用部品として使える場合も多いだろう。また逆に設計を行う際に弱点を強化するレストモッド的なアプロ―チをとることで、改善すら可能だ。

3Dプリンター活用とリユース事例その1・・・艦艇の中で補給部品を製造

リサイクルにつきものの問題は「現実的なコスト感なのか」という点だが、まずは経済的な合理性よりも対策が必須となる分野から取り組みが始まるだろう。その一例が軍事分野だ。すでに米海軍が艦艇内での補修部品製造に取り組んでいるように、軍事行動の際の資源調達は現実化している。

安全保障の分野など、必要に迫られたサステナビリティ対応はコストを度外視して進んでいくことだろう。ここでは軍事分野での事例を引いたが、長年稼働している生産設備でハンドルが壊れた、カバーが損傷したなどの一部分だけの部品破損に関しては、治具を開発する要領で補修部品をその場で製造していく取り組みがいま現在も広く行われていると思われる。

3Dプリンター活用とリサイクルの取り組み(AMとRecycle)

従来樹脂のリサイクルといえば、焼却する際に燃料としてリサイクルする熱リサイクルの割合が多くを占めてきた。それだけバージン材での製造のほうがコスト競争力もあり、材料の品質も高かったためだ。しかし品質の劣化を伴わない高付加価値化するリサイクルが実現できれば、経済合理性のあるリサイクルが可能なのではないかということで、取り組まれているのがアップサイクルという高付加価値なリサイクルを目指す取り組みだ。

3Dプリンター活用と資源リサイクル事例その1・・・東京オリンピックの表彰台

2020年の東京オリンピックの際には、P&Gなどの協力のもと、慶応大学の田中研究室、エス.ラボ社がオリンピックの表彰台の製作で再生プラスチック材料を活用し、ペレット式3Dプリンターで造形する取り組みを行った。

実際に造形にあたったエス.ラボ社の柚山社長によると、ボランティアによる、さまざまな樹脂材料が一緒になった材料だったが、慶応大学の田中研究室が添加物を配合するなどの工夫で物性を安定させ、無事ペレット材料化できたということだ。

3Dプリンター活用と資源リサイクル事例その2・・・畳のリサイクルでミラノサローネへ

リサイクルではなくアッサイクルという形で樹脂材料を利用しようという取り組みは、同じく日本の3Dプリンタースタートアップ、エクストラボールドなども取り組んでいる。国内では利用頻度が低下している上に廃材処理が問題になりがちな畳のリサイクルに取り組み、いぐさを混錬した樹脂材料で家具を制作し、ミラノサローネに出品し受賞を受けるなど取り組みもある。

3Dプリンター活用と資源リサイクル事例その3・・・ペットボトルをリサイクルした透明なサーフボード

ペットボトルを集めリサイクルした材料から透明なサーフボードを制作している取り組みもある。

3Dプリンター活用と資源リサイクル事例その4・・・工場内での廃棄を減らす取り組み(NTT Data XAM Technologies)

XAMは2023年10月に工場内の材料の循環プロセスを複数企業と連携して実現したと発表した。金属AMでは、造形中に生じるスパッタなどが原因で、金属粉末の粒径が大きく不揃いになる場合がある。パウダーベッドに充填された粉末の粒径をそろえるため、材料はふるいにかけられ、均等な粒径に揃えられるが、こしとられた規定以上のサイズの粉末は廃棄することになる。また金属3Dプリンターで造形する際に発生するサポート材は、取り除かれたのちに廃棄される。こうした廃棄される金属を融解して金属材料としてリサイクルすることで、サーキュラーエコノミーを実現しようというのがXAMの取り組みだ。

3Dプリンター活用と資源リサイクル事例その5・・・金属廃材を再利用するContinum

金属廃材のリサイクルという意味ではシンガポールのContinumなどが取り組みを強化している。Continumは30cmほどの金属片を溶融し再度金属パウダーの精錬することに特化した小型装置を開発している。

天然自然の枯渇は大きな問題で、掘りつくせば、いずれなくなってしまう。その為長期的に考えるとリサイクルは有効な打ち手だといえるだろう。

3Dプリンター活用と資源リサイクル事例その6・・・金属廃材を再利用するContinum 鉱石から金属部品の製造を目指すサンメタロン

将来的には月面や火星で鉱石から金属部品を製造したいと語るスタートアップ企業、サンメタロンも、廃材の利用を視野に入れている。僻地の鉱山や宇宙のように補給がままならない環境下でも金属部品を調達できる装置の開発を進めているという。

技術的に機密が多いため実際の取り組み内容はベールに包まれているが、トヨタとの共同開発でアルミニウム合金のリサイクルプロセスを開発し鋳造学会などでも発表を行うなど、着実に技術的な蓄積を行っているようだ。

制度改変による圧力がサステナブルな取り組みを加速させる要因

日本でもすでにサステナブルなモノづくりに取り組む様々な事例が存在する。しかし単純にコストだけを見ると、特に取り組み開始のタイミングでは、コストアップ幅も小さくないため、ビジネス上、自発的な取り組みは難しいかもしれない。

しかしEU圏での国境炭素税のような制度改変による圧力が実現すると、業界の足並みをそろえた一斉対応などが現実的になる可能性がたかい。実際日本でもコンビニのレジ袋有料化が実現した。こうした変化を見越した対応策の検討や試験的試行はいますぐにでも始めるべき段階に来ているのかもしれない。

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