日本初の3Dプリンター住宅メーカーであるセレンディクス株式会社(以下、セレンディクス)は、東京大学の研究室と連携し、3Dプリンターで製造した耐力壁の構造性能を検証する加力実験を実施した。本取り組みは、3Dプリント建築をRC構造の「型枠」ではなく、自立した「構造体」として活用することを目指すものであり、2027年度に予定される実物大実験に向けた基礎データの取得を目的としている。
目次
プロジェクトの背景
現在、同社が販売しているモデルに使用されている3Dプリンター製部材はモルタル製である。しかし、このモルタルは現行の建築基準法が定める指定建築材料に該当しない。そのため、法規上はRC構造の周囲に配置される「非構造材」として扱われている。
3Dプリントされたモルタル部材を構造体として活用できれば、施工工程の簡素化、建設コストの削減、工期短縮などの効果が見込まれる。その実現には、構造性能を科学的に把握し、客観的データを蓄積することが不可欠である。
本実験では、変形性能、耐力、破壊性状を詳細に確認し、将来的な国土交通大臣認定の取得および型式認定による確認申請の省力化を視野に入れている。
実施体制
主催はセレンディクス株式会社、実験計画は株式会社KAPが担当した。監修は東京大学生産技術研究所 腰原研究室および東京大学大学院工学研究科 丸山研究室。実験は東京大学生産技術研究所 千葉実験所(柏キャンパス内)にて実施された。
実験概要:6種類の耐力壁を比較検証
実験では6種類の耐力壁試験体を製作し、水平方向から荷重を加えて挙動を確認した。3Dプリント建築は曲面形成の自由度が高い点が特徴であるが、従来の鉄筋を曲面に沿って配置するには施工上の負担が大きい。そこで鉄筋以外の引張材の可能性も含め、複数仕様を比較した。
水平積層面の耐力壁(試験体A〜D)
- 試験体A:鉄筋による標準タイプ
- 試験体B:GRC(ガラス繊維補強コンクリート)補強タイプ
- 試験体C:PC鋼より線ケーブル補強タイプ
- 試験体D:炭素繊維シート補強タイプ
垂直積層面の耐力壁(試験体E・F)
- 試験体E:縦積層・面外方向トラス構造タイプ
- 試験体F:縦積層・面内方向耐力壁タイプ



実験結果の概要
6種類すべての試験体について実験を完了し、変形性能、耐力、破壊挙動に関するデータを取得した。一部試験体では多数のひび割れが発生したものの、急激な耐力低下は見られず、安定した復元力特性が確認された。構造体としての可能性を示す結果である。また、鉄筋以外の補強材を用いた試験体についても、それぞれの材料特性に応じた挙動データが得られた。今後の住宅モデル開発への応用が見込まれる。


今後の展望
今回の要素実験で得られた知見を基に、2027年度には実大スケールでの性能実験を計画している。実建物規模で耐震性能を検証し、3Dプリント建築を構造体として確立することを目指す。データ蓄積を通じて国土交通大臣認定の取得を進め、3Dプリント部材をRC構造の補助的存在にとどめない建築手法へと発展させる考えである。さらに型式認定を取得することで確認申請の効率化を図り、3Dプリンター住宅の普及と低コスト化を推進していく方針である。
セレンディクス CTO 飯田國大氏 コメント
「日本は世界有数の地震大国であり、それゆえに世界で最も厳しい耐震基準を持つ国でもあります。今回、従来の鉄筋だけでなくガラス繊維や鋼製ケーブル、炭素繊維といった多様な補強材で壁部材の強度を検証できたことは、3Dプリンター建築の今後の可能性を広げるきっかけとなる大変有意義な実験となりました。
当社は2022年に日本初の3Dプリンター住宅を完成させて以来、住宅、駅舎、万博施設と実績を積み重ねてきましたが、3Dプリントで造形した部材自体が『構造体』として認定を受けられれば、建設コストと工期のさらなる削減が可能になります。日本で培った耐震技術と3Dプリンター技術を融合させ、国内はもちろん、プロジェクトが進行中のウクライナをはじめとする世界中の人々に、安全かつ手頃な住まいを届けていきたいと考えています。」
編集部コメント
3Dプリンター住宅が「型枠」から「構造体」へと進化するかどうかは、日本市場における最大の分岐点である。材料そのものが構造体として認定されれば、施工プロセスの再設計が可能となり、RC造の常識が変わる可能性がある。特に曲面構造との親和性を活かした設計自由度は、従来工法では実現が難しかった領域である。2027年度の実大実験は、日本の3Dプリント建築における次の節目になるといえる。
用語解説
| ■ 耐力壁 地震や風などの水平力に抵抗する壁のこと。建物の耐震性能を左右する重要な構造要素であり、変形性能や破壊性状の評価が安全性確認の鍵となる。 |
| ■ 型式認定 建築基準法に基づき、同一仕様の建築物や部材についてあらかじめ性能評価を受ける制度。取得すると個別の確認申請手続きが簡素化され、量産モデルの普及に有利となる。 |
| ■ GRC(ガラス繊維補強コンクリート) モルタルやコンクリートにガラス繊維を混入し、引張強度やひび割れ抵抗性を向上させた複合材料。鉄筋に代わる補強材として活用が検討されている。 |
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