カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を中心とする研究チームは、3Dプリント技術で製造した多孔質炭素電極を用いることで、従来の同種デバイスと比べて7倍を超える電荷を蓄えられる亜鉛イオンハイブリッド蓄電デバイスを開発した。研究成果は学術誌『Small』に掲載されている。
今回の研究では、3Dプリントによって電極内部に大きな表面積を持つ複雑な微細構造を形成し、酸化バナジウムを組み合わせることで蓄電性能を向上させた。また、蓄電デバイスの性能評価に使用する試験セル自体も3Dプリントで製造し、実験データの再現性向上につなげている。
目次
ハニカム状の3Dプリント電極で表面積を大幅に拡大
研究チームが開発したのは、電池とスーパーキャパシタの特性を組み合わせた亜鉛イオン系のハイブリッド蓄電デバイスである。
スーパーキャパシタは急速な充放電や長寿命といった特徴を持つ一方、主に電極表面を利用して電荷を蓄えるため、エネルギー貯蔵量に制約がある。
そこで研究チームは、炭素電極そのものを3次元化することで表面積を大幅に増加させた。
電極はハニカムやスポンジに似た構造を持ち、内部に大量の微細な空洞が形成されている。液状樹脂を紫外線レーザーによって硬化させる3Dプリント技術で造形した後、加熱・ガス処理によって多孔質の導電性炭素構造へと変換。さらに、エネルギー貯蔵能力を持つ酸化バナジウムを担持させた。
この構造によって極めて大きな内部表面積を確保しており、研究チームによると、材料1gあたりの表面積を平面に広げるとテニスコート約10面分に相当するという。
UCLAのRic Kaner教授は、3Dプリントを用いることで3次元骨格を積層しながら構築し、その微細構造を制御できると説明する。内部に膨大な数の微細孔を設けることで、大きな表面積を確保し、多くの電荷を蓄えられるようになった。
開発したデバイスは、同種の従来デバイスと比較して7倍を超える電荷を蓄えることに成功。また、1,500回の充放電サイクル後にも初期容量の82%を維持した。
3Dプリント製試験セルで測定の再現性も向上
今回の研究では、電極だけでなく蓄電デバイスの評価に使用する試験セルにも3Dプリント技術が活用された。
研究室における蓄電デバイスの評価では、電解液を入れた開放型のビーカーに電極を配置する方法が使われることがある。しかし、この方法では時間の経過とともに電解液が蒸発するほか、電極同士の位置関係が変化することで測定結果にばらつきが生じる可能性がある。
市販のガラス製試験セルも存在するものの、UCLAによれば価格は1,000ドル以上するという。
そこで研究チームは、密閉構造を持つ試験セルを3Dプリントで製作した。電解液の蒸発を抑えるとともに、電極を一定間隔で保持するスロットを設けることで、測定条件を安定させた。
実験では、3Dプリント製試験セルを使用した標準的な炭素電極が、長期間のサイクル試験後も高い容量維持率を示した。一方、従来の開放型セルでは100サイクル未満で試験継続が困難になったという。
研究チームは、3Dプリンタを利用できる研究者であれば同様の試験セルを製作し、それぞれの研究用途に合わせて設計を変更できる点もメリットとして挙げている。
リチウムを補完する蓄電技術として亜鉛に注目
今回研究対象となった亜鉛は、リチウムと比較して資源量が豊富で、採掘やリサイクルもしやすい材料である。UCLAによると、亜鉛はリチウムの約100倍豊富に存在するという。
太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの利用拡大に伴い、大量の電力を低コストで蓄えるグリッドスケールの蓄電技術が重要になっている。
研究チームは、単一の蓄電技術だけですべての需要をカバーするのではなく、用途に応じて異なる技術を組み合わせていく必要があるとみている。今回の亜鉛イオン系デバイスも、既存のリチウムイオン電池などを補完する選択肢の一つとして期待される。
編集部コメント
3Dプリントの特徴である「内部形状を設計できる」という強みを、蓄電デバイスの性能向上に直接利用した研究である。外形を複雑にするのではなく、電極内部に膨大な数の微細孔を形成し、反応に利用できる表面積を増やしている点が興味深い。
また、今回の研究では高性能な電極を造形するだけでなく、実験に使用する試験セルの製造にも3Dプリントを活用している。高価な専用器具を購入する代わりに、必要な機能を備えた研究用治具を3Dプリンタで製作するという使い方は、研究開発現場におけるAMの実用的な活用例といえるだろう。
研究段階の成果ではあるものの、電極のような機能部材から研究設備まで、3Dプリントによる形状設計の自由度がエネルギー分野でどのように利用されていくのか注目したい。
用語解説
| 亜鉛イオン蓄電デバイス |
|---|
| 亜鉛イオン(Zn²⁺)を利用して電気エネルギーを蓄える蓄電技術。亜鉛は比較的資源量が多く、リチウムを利用した蓄電技術を補完する材料として研究が進められている。今回の研究では、電池とスーパーキャパシタの特徴を組み合わせたハイブリッド型のデバイスが開発された。 |
| スーパーキャパシタ |
|---|
| 電極表面などに電荷を蓄える蓄電デバイス。一般的な二次電池と比べて高速な充放電が可能で、繰り返し使用に強い一方、蓄えられるエネルギー量が小さいという特徴がある。 |
| 多孔質構造 |
|---|
| 材料内部に多数の微細な孔を持たせた構造。内部表面積を大きくできるため、触媒、フィルター、電極など幅広い用途で利用される。今回の研究では3Dプリントによって電極の3次元骨格を形成し、大きな内部表面積を確保している。 |
| 酸化バナジウム(VOx) |
|---|
| バナジウムと酸素からなる化合物群。電気化学的に電荷を蓄える性質を持つことから、電池やスーパーキャパシタなどの電極材料として研究されている。今回の研究では、3Dプリントした多孔質炭素構造に酸化バナジウムを担持させている。 |
大学研究の関連記事
今回のニュースに関連するものとして、これまでShareLab NEWSが発表してきた記事の中からピックアップして紹介する。ぜひあわせてご覧いただきたい。

