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世界で初めてフッ素樹脂をPBF方式3Dプリンター用材料粉末として開発―ダイキン工業

日進月歩で進化する3Dプリンター市場において、材料メーカーの取り組みも積極化している。樹脂分野においてはBASFやpolymakerなどの海外勢の多様な造形材料の紹介が目立つが、高機能材料を開発製造する日本の材料メーカーの高機能材料開発の動きも見逃せない。今回は世界で初めてパウダーベッドフュージョン方式の3Dプリンターで利用できるフッ素樹脂(PFA)を開発したダイキン工業をご紹介する。(写真は3DプリンターによるPFA造形物、ダイキン工業株式会社より提供)

フッ素樹脂は、高温や過酷な化学環境で広く使用されているスーパーエンプラ

フッ素というと虫歯予防のフッ素歯磨き粉やフッ素コーティングされた焦げつかないフライパンを思い出すが、樹脂材料としてのフッ素は熱可塑性樹脂のスーパーエンプラ(スーパー・エンジニアリング・プラスチック)の一つであり、PTFE、PFA、FEP、PCTFE、ETFE、PVdFなど種類がある。「特徴が多いことが特徴」と業界関係者が語るように多面的な特徴を持っているが、産業分野では、自動車、電気通信、航空宇宙、電気電子、化学処理、医療などのアプリケーションで活用されている。

2019年のフッ素の産業用途画像
2019年のフッ素の産業用途(日本弗素樹脂工業会発表をもとにシェアラボ作成)
製品タイプPTFE・FEP・PVDF・フッ素エラストマ・PVF
PFA・ETFE・PCTFE・ECTFE
用途フィルム・チューブ・シート・パイプ・膜・シーラント
屋根・添加剤
産業輸送部門(自動車、航空機、宇宙産業)
電気電子(ワイヤー・ケーブル・太陽光発電モジュール
・バッテリー・燃料電池)
産業機器(化学・製薬機器、半導体製造機器)
その他(調理器具、繊維、潤滑剤)
地域北米・欧州・アジア太平洋・ラテンアメリカ
主要企業アルケマ・AGC・ケマ―ズ・ダイキン工業・東岳
・ハネウェル・ソルベイSA・3Mなど
フッ素の産業利用について(シェアラボ作成)

多用途で利用されるフッ素系材料だが、市場規模的にみるとフッ素樹脂市場は2019年に77億ドル(約8,010億円)で2027年までに117億ドル(1兆217億円)に成長する見込みを示している。(Reportocean.com「フルオロポリマー市場調査レポート」より)。

PFAの用途

フッ素系樹脂の樹脂の代表格と言えばPTFEだが熱溶融性が低いため、射出成形などではPFAが用いられることが多い。そんなPFAはさまざまな産業分野で活用されている。

PFAは半導体分野では電気を通さない絶縁性を活かしチューブ、継ぎ手、ウェハーバスケット・ボトルなどに用いられている。また酸・アルカリ・有機溶剤のほとんどの薬品・溶剤に対して過酷な環境下でも侵されにくい耐薬品性の高さから半導体製造装置など強酸やアルカリ性の薬液を多用する装置に用いられている。他にもリチウムイオン電池のパッキン、電線被覆材、コピー機やプリンターの定着ローラーや紙送り部などにも利用されている。従来は主に射出成形やインサート成形で加工されてきたが、溶接や溶着など行い組み立てたり、金属部品と組み合わせるなど用途に合わせて加工されてきた。

輸送機械主に自動車分野)では、連続使用温度としては260度程度まで対応できる耐熱性と内容物の固着がしにくい非粘着性を活かして自動変速機のシール材、ベアリング、ATセンサー電線やコントロールケーブルの被覆材などに利用されている。

コピー機やプリンターなど、稼働したり待機したりが断続的に繰り返される精密機器の中でも利用されており、粘性が高いインクが固着しにくいという非粘着性の高さを活かして、プリンターのトナー定着用ロールに塗布されたり、原稿スライド材、転写ロール、軸受などにも用いられている。

こうして、幅広い用途で活用されているPFAだが、3Dプリンター向けの材料提供はほとんどなかった。

ダイキン工業が世界で初めてPFAをパウダーベッド方式用の粉末材料として開発

そんな中、業務用空調設備のメーカーである印象が強いが、世界シェア2位のフッ素化学メーカーでもあるダイキン工業が、世界で初めてパウダーベッド方式用にフッ素樹脂の中でもPFAの材料粉末を開発した。開発時に利用した3Dプリンターはアスペクト社のRaFaElⅡplus 300C-HTで、造形したサンプル(ダンベル形状)に対してさまざまな性能試験を行っている。

図6 PBFで作成したダンベルの靭性画像

断面観察結果から,PBFで造形したダンベルには明らかなボイドは見られず,レーザー照射時における粉体同士の溶融・結合が良好なことが示唆される。次に,引張特性に関しては,弾性率・降伏応力は熱プレス品と同等であり,破断応力や破断伸度は熱プレス品の半分程度と各プロセスで作製したダンベルの引張特性なっているが,それでも約150%の伸びを示す。ダンベルは曲げたり,ねじったりしてもクレーズが発生することがなく,高い靭性を示す。耐屈曲性データは今後取得予定である。

「粉末床溶融結合法向けフッ素樹脂 PFA(開発品)について」(MATERIAL STAGE Vol.20, No.4 2020)より
図5 各プロセスで制作したダンベルの引張特性画像

通常、材料粉末は流動性を高めるため材料に添加物を加えるが、ダイキンのPFA粉末は粉末の粒径や粒度分布を最適化し、PFA100%の材料となっているという事で、射出成形で利用する材料とできるだけ同じ材料を3Dプリンターで利用したいという現場の声に応える形となっている。

短期的には試作や耐薬品性・耐熱性を活かした治工具製造に期待

ダイキンではPFA粉末材料に関して広く用途開発の相談を募っていくとしており、具体的に使ってみたい、相談したいという声には対応していくとのことだが、PFAを3Dプリンターで積層造形できることで、どのような市場が今後期待できるのかシェアラボ編集部でも考えてみた。

パウダーベッド方式の樹脂3Dプリンター(特に検証済みのアスペクト社のRaFaElⅡplus 300C-HT)を保有しているメーカーの研究開発の現場では、試作開発での活用がスムーズに実施できるだろう。すでにフッ素系樹脂を利用している企業では、射出成形と成分上では同じ材料で試作を繰り返すことができる点は、非常に大きな価値があると思われる。

また3Dプリンターとして治工具を造形する場合は、耐薬品性と耐熱性を活かした塗装ラインで用いられる塗装治具や、絶縁性を求められる電気電子部品の製造ラインでの治具など、多品種少量生産に取り組む製造現場の大きな助けになることが期待できる。3Dプリンターで材料の選択肢としてスーパーエンプラが選択として増えてきた中ではあるが、フッ素樹脂PFAが持つ耐薬品性、耐熱性、低誘電性などの組み合わせがどのような形で新しいものづくりの可能性を広げてくれるか注目していきたい。

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編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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