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船舶部品調達市場のゲームチェンジャーとなるか―ウィルヘルムセンとティッセンクルップが3Dプリンティングの合弁会社を設立

ノルウェーの海事会社ウィルヘルムセンとドイツの部品製造サプライヤーであるティッセンクルップは、海事産業(海運・造船・船用産業)を対象に、3Dプリンティング技術を活用した補修部品提供を推進する合弁会社を設立すると発表した。

ShareLab NEWSをご覧になっている方の中には、そもそもの船舶の保守部品市場について馴染みの薄い方も多いと思われるので、その規模感から両社のAMに関する取り組みをお届けする。(写真は、ウィルヘルムセンWebサイトより引用)

船舶の補修部品AM市場―自動車市場などと比べると未成熟だが、大きなポテンシャルを持つ

船舶は自動車と比べて寿命が長い輸送手段だ。日本の一般的な船舶の耐用年数について日本海事広報協会では「船齢の平均をみるとタンカーで18年程度、ばら積み船で25年程度、一般貨物船で27年程度」と紹介されている。

ウィルヘルムセンによると、世界全体でみると全貨物輸送船の半数近くが15年以上運行されているという。こうした長期間航行する船舶の補修部品需要に対応せざるを得ない造船・船用産業だが、自動車や航空機と比べると3Dプリンターを使ったモノづくりへの対応は世界的にもまだまだこれからの分野だった。

船用スペアパーツ市場は、船舶自体が巨大でかつ無数の部品(タンカーの部品点数は1隻あたり25万点、巨大客船の部品点数は1200万点にも上る)から成り立っている事、船舶の耐用年数が20年近くにも及ぶこともあり、補修部品の在庫が潤沢に用意されている状況ではない。

そのような背景にも拘わらず、船舶の点検や故障を機に都度調達を行い、機械加工や鋳造などの従来の製造プロセスを行うため数か月に及ぶ長いリードタイムが伴うことになるというのが現状だったという。

だがウィルヘルムセンによると、毎年数千億ドルのマーケットサイズを誇るためそのポテンシャルは大きいと思われる。船舶は使う部品も多いということから、今後、従来の機械加工から3Dプリンティングが取って代わることによる変化は大きい。

ウィルヘルムセンの取り組み―イバルディグループと提携、AM関連の部品提供を進めてきた

今回の合弁会社設立に先立ち、ウィルヘルムセンは、海事産業用スペアパーツ提供の専門メーカーであるイバルディグループと提携しAM関連の部品提供に取り組んできた。

イバルディは、補修部品のサービスとしての提供(PRaas:Parts Replacement as a service)を標榜し、最適な立地にある顧客のローカル拠点やサービスビューロのネットワークを構築する事で「データを送付するだけで補修部品を世界中で都度生産できる体制」を整える事業を展開中で、2019年にISO 9001:2015品質認証を取得するなど、着実に取り組みを進めてきたAM企業だ。

こうした取り組みが功を奏し、同社はすでにBerge Bulk、Carnival Maritime、Thome Ship Management、OSM Maritime Group、Executive Ship Managementなどの海事企業との取引がある。

ウィルヘルムセンは、海事産業関連企業に3Dプリント部品を供給するプログラムを始め、すでに同社と共同で3Dプリンターの消耗品(材料など)のドローン配送も試行している。また、海上でもドローンを使った部品納品を行い、船の運航を止めずに消耗部品を補給できる取り組みも進めている。

AMに関する幅広い分野に専門性を持つティッセンクルップ。マツダやスバルへの納入実績も

とはいえ、船舶の心臓部であるスクリューやエンジン部分は、高度な金属造形のノウハウが必要となり、クライアント各社の品質に対する要求水準も高いだろう。そもそも、AMでの造形品に対する評価基準を設けるところからのスタートになることが想像される。こうした分野で、航空宇宙や自動車など幅広い分野で金属部品を納入してきたティッセンクルップの持つノウハウが光ってくる。

日本でもマツダやスバルの自動車メーカーへ部品納入の実績があるティッセンクルップだが、AMに対しても世界中で取り組みを展開している。2017年には、本国であるドイツにアディティブ・マニュファクチャリングセンターを開設し、DNV・GLによる製造物に関する高レベルの認証を受けているとしている。また、2019年にはシンガポールにアディティブ・マニュファクチャリング・テックセンター・ハブを開設。研究だけにとどまらず、AMに適した部品の選定、実践的な採用のための基準作り、要員のトレーニングプログラムの開発などを行ってきた。

ティッセンクルップは、以前よりAMについてシンガポール含めた東南アジアを注視してきた
ティッセンクルップは、以前よりAMについてシンガポール含めた東南アジアを注視してきた(ティッセンクルップ資料より引用)

DNV・GL
DNV GLは、第三者認証機関として、リスク品質に関する規格を認証するサービスを提供しており、日本でも認証(Business Assurance)、技術コンサルティング(Advisory)、船級(Maritime)などの分野でサービスを展開。オイル&ガス分野のリスクマネジメント、風力/電力送配電分野のエキスパート、船級協会(船における車検)などの産業で実績多数。

アディティブマニュファクチャリングの採用について、海事会社のお客様からすでに非常に好意的な反応が見られます。彼らは、リードタイムの短縮、コストの削減、スペアパーツのサプライチェーンの回復力の向上によるメリットを実感しています。今回の合弁会社は、海事業界にとって真のゲームチェンジャーになるでしょう。ウィルヘルムセンと一緒に提供できることを誇りに思います。

2019年12月に提携を発表した際に、ティッセンクルップイノベーション、ディレクター Abhinav Singhal氏

船舶補修部品のAM提供は今後も成長する見込み。今回の合弁会社設立の意義は大きい

大量生産品でない、少数生産で製造される船舶の補修部品市場は、耐用年数の長さや膨大な部品点数の多さも影響して高いコストとリードタイムを必要とする業界だった。

だからこそ、さまざまな部品を少量生産する際にコストメリットがある3Dプリンターを調達手段に組み込むことで、得られるメリットは大きい。他の業界と同様、何をAMで調達するべきかという部品選定と、品質に対する受け入れ基準、調達網のへの取り組みに関して課題は多いものの、船舶部品の調達が根本から変わる大きなインパクトをもたらす可能性が大きい。

今回の合弁会社の設立は、こうした課題を現実的な解決策に導く取り組みがいよいよ本格化してきたことを感じさせる。取り組みの中心地にシンガポールが選ばれたことは、環太平洋地域の中でも海上輸送の要所にあるだけではなく国を挙げてAM推進に取り組む同国の政策にも大きく起因するように思われる。環太平洋地区のAMに関する重要拠点として、シンガポールにさまざまな企業、人材が集まっているとも聞く。3Dプリンティングの取り組みは、同国を皮切りに活性化することが予想される。

シンガポールでの取り組みには日本から川崎重工も参画が決定したのでご紹介しておく。

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編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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