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「3D構造体食感ビュッフェ」取材レポート、下北沢で未知の食感を体験!

2023年1月29日(日)に下北沢で開催された「3D構造体食感ビュッフェ」に、ShareLab NEWSの編集部員が参加した。3Dフードプリンターで作られたさまざまな食感を体験してきたので、当日のイベントの様子をご紹介したいと思う。

3D構造体食感ビュッフェは「未知の食感」を楽しむイベント!

3D構造体食感ビュッフェとは、3Dフードプリンターで作られたさまざまな構造体の食感を楽しめるイベントだ。構造体は米粉をゲル化した「ライスジュレ」で構成されており、構造体に調理や味つけを施すことで、これまでに食べたことのない食感を体験できる。好奇心をくすぐられるテーマが話題を呼び、1枚3,500円の参加チケットは早々に完売した。

3D構造体食感ビュッフェを企画したきっかけ

3D構造体食感ビュッフェの主催メンバー。左から浅井氏・市川氏・若杉氏・斎藤氏
3D構造体食感ビュッフェの主催メンバー。左から浅井氏・市川氏・若杉氏・斎藤氏

同イベントを運営するのは、オープンラボ「高次素材設計技術研究舎 -Melt.(以下、Melt.)」のメンバーである浅井氏・斎藤氏と、3Dフードプリント事業を展開する「Byte Bites株式会社」の若杉氏、「国際芸術複雑情報生命科学学会 ( IACILS)」主催の市川氏だ。オープンラボとは、同じ分野に興味を持つ人同士が集まり、研究活動を行う場所のことである。

Melt.は、浅井氏が代表を務める「Metalium合同会社」と、斎藤氏がプログラムマネジャーなどを務める「FabCafe Nagoya」のオープンラボとして立ち上がった。立ち上げの目的は、高次素材(存在の検証が難しい無形素材)について研究するためである。高次素材に興味のある仲間を集めて勉強会を行っていたところ、「未知の食感=高次素材なのではないか」という話で盛り上がり、初回イベントの「構造体おでんの会 ※」が開催されることになったという。

「構造体おでんの会」で手ごたえを感じたことで、未知の食感をデジタル技術で再現する「コンピュテーショナル食感デザインプロジェクト」が発足。未知の食感をさらに深掘りして探究するために、今回の3D構造体食感ビュッフェが開催される運びとなった。今回のイベントで提供された数種類の構造体は、約1年にわたる活動の過程で生まれたものである。

※構造体おでんの会とは、構造体をおでんにして食べて感想を言い合うイベント。2022年1月から開催している。

構造体の成形に使用されたMEX方式(材料押出法)の3Dフードプリンター
構造体の成形に使用されたMEX方式(材料押出法)の3Dフードプリンター「LuckyBot」(Wiiboox社製)

3D構造体食感ビュッフェの目的は「表現のデータベースをつくること」

同イベントの真の目的は、参加者に未知の食感を体験してもらうことではない。最終的なゴールは、未知の食感を自由自在に再現できる「食感ジェネレータ」を開発することにある。ジェネレータとは、設定した条件に基づいてデータを自動生成するプログラムのことである。食感ジェネレータを開発するためには、さまざまな食感を表現するための元データが必要となる。今回のイベントは、食感ジェネレータの元データとなる「食感の感想」を参加者から集めることを目的としている。

一つの食感に対して多くの感想が集まるほど、データベースの精度も高くなる。そのため、イベントの冒頭では「食感を表現するために、皆さんには食感ソムリエになっていただきたいです」「最初に口に入れた時の噛みごたえと舌触りを確認し、次に飲み込んだあとの口の中に残った食感や舌触りがどのようなものかを表現してください」という説明があった。

参加者の感想がそのまま食感ジェネレータのデータベースとなるため、編集部員は脳内データベースから食レポのレパートリーを必死に検索。この時点で「おいしい」しか思い浮かばないことに若干の焦りを感じる(無事に食感ソムリエの任務を果たせたかは、後半で乞うご期待……)。

【体験①】まずは素材そのものの食感を確認

食感を評価する「基準」を明確にするため、最初にライスジュレそのものの食感を体験することに。もちろん、食べるだけでなく感想も考えなければならない。

いきなりライスジュレの感想を考えるのはハードルが高いため、まずは身近な食材である煎り豆の食感レポートからチャレンジした。豆は何度も食べたことがあるが、いざ感想を求められると「ポリポリしてておいしい」という月並みな表現しか思い浮かばない……。豆の食感について深く考えてこなかったことが悔やまれる。

参加者からは、「豆の薄皮が歯の自重で儚く砕ける」「噛んだ瞬間はアタック強め」「飲み込んだあとは藁のような自然な香りが鼻から抜ける」という素晴らしい感想が飛び出していた。すでに立派な食感ソムリエである。

米粉をゲル化して作られた「ライスジュレ」と煎り豆。図らずも節分気分を味わえた

煎り豆でのウォーミングアップが終わり、いよいよライスジュレの食感を体験することに。未知の食感にドキドキしながら、ライスジュレのかたまりをソクッとすくって口に入れた。

食感としては、粉っぽさが少し残るくらいの水の量でこねられた白玉粉に似ているかもしれない。ライスジュレの原料はお米なので、食べたことがある食感のような気もする。が、全く同じ食感のものがあるかと言われると難しい。食べたことがあるようなないような、不思議な食感だ。

とある参加者の方が「冷やした消しゴムみたい」と表現していて、「その表現が一番近くて的確だ!」と感じた。
消しゴムのなかでも、弾力が弱めで小ぶりの消しゴムに似ている気がする(食べたことはないけど)。全く同じ食感は存在しなくても、身近な食感に例えることで感想の精度を高められるかもしれないと感じた。

参加者にライスジュレの感想を聞いている様子
参加者にライスジュレの感想を聞いている様子。食感を身の回りのものに例えた表現がお見事!

【体験②】蒸す・焼く・揚げる ― 構造体を自由に調理!

ここからは、いよいよ構造体を調理して食べることに。異なる食感を再現するためにデザインされた3〜4種類の構造体を、自由に調理して食べることができる。それぞれの構造体には、「極小曲面構造体」「人工生命発酵」「負ポアソン比構造」のように名前がつけられている。構造体の形にはすべて意図があり、「この形にしたらこのような食感が再現できるのではないか」という物理学的・数学的な仮説のもとにつくられているのだ。

調理する前の構造体。食感の違いを出すために、数種類の構造体が用意されていた

ライスジュレの構造体はどれも薄くてやわらかいので、小さなヘラ(ハガシ)を使って、破れないように慎重に鍋の中にイン。揚げ調理用の構造体は、油の海にダイブした瞬間に形が崩れて原型がわからない状態に…。蒸し調理用の構造体も、はじめは原型を保っていたものの、火が通るにつれて溶けてきてしまった。

調理したものを食べてみると、揚げた構造体は「油を吸収した天かす」のイメージに近かった。蒸した構造体は、とろっとした舌触りがくず湯に似ている。今回の構造体は米粉でつくられていたので、高温でも形が崩れにくい材料を使えば元の形をキープできるかもしれない。今後のさらなる改良に期待したい!

次は、2種類のホットプレートで「焼き」と「揚げ焼き」に挑戦。先ほどと同様、やさしくゆっくりと構造体をプレートにのせる。両方のプレートに構造体をきれいに着地させることができた。蒸し調理と揚げ調理では加熱で形が崩れてしまったが、今回は形がキープできている。

ただ、多少は膨らんだり溶けたりするので、調理前と比べるとどうしても形の変化が出てしまう。そのため、調理方法による食感の違いは認識できても、構造体の種類ごとの食感の違いを認識するのは難しかった。

構造体ごとの微細な食感の違いを判別することはできなかったが、どちらも個人的に好きな食感だった。

特に、「揚げ焼き」の構造体は油で揚げた部分がカリカリしていて、居酒屋でおつまみとして出されたらお酒が進みそうだ。「焼き」の構造体は、表面はうっすら焼き色がついて軽い歯応えがあり、中は加熱前のもったり感が少しだけ残っていた。

【体験③】あんこペーストが一番人気? ― 好きな調味料を合わせて実食!

調理がひととおり終わったら、最後に調味料をつけて実食。調理直後の味つけなしの状態でも食べてみたが、調味料をつけることで新しい発見が生まれるかもしれない。スプーンで少量ずついろいろな調味料をつけて、味の違いを楽しんだ。

焼き海苔や食べるラー油などと合わせると、味覚だけでなく食感にもアクセントが加わって食欲が増進される。
ポン酢や牡蠣醤油でさっぱり食べるのもおいしかった。

参加者が持参した調味料。食べるラー油などで食感にアクセントを加えると箸が進む(撮影:松岡修平)

参加者のなかで最も人気が高かった調味料は「あんこペースト」だった。そのほかには、ポン酢や蒲焼のタレにも人気が集まっていた。

あんこペーストが一番人気だったのは、味がおいしいのはもちろん、「意外な組み合わせだけどおいしい」という新たな発見があったからなのかもしれない。実際に、「この調味料初めてだから試してみよう」など、未知のチャレンジを積極的に楽しんでいる参加者がとても多かった。編集部員はしょっぱい系の調味料ばかりに手がのびてしまったので、「守りに入ってしまった…もっと大胆に試さねば!」と刺激を受けた。

「塩とあんこペースト」など、ひと工夫を加えたアレンジがたくさん飛び出した(撮影:松岡修平)

【体験④】食感ソムリエとして感想を発表

実食が終わったら、自分が食べた構造体の感想を付箋に記入。お腹が満たされてうっかり忘れそうになったが、参加者一同は、食感ソムリエとして感想を伝えるためにここに集められたのである。編集部員も、直前に体験した構造体の食感と味を思い出しながら必死で付箋を埋めた。

壁一面に貼られた参加者の感想は、自分では思いつかないようなユニークな表現ばかりでとても面白かった。編集部員の目に留まった感想をいくつか紹介したい。

  • 風船を噛んだように薄いが、やや反発のある食感
  • にごり温泉のような、とろっと舌にまとわりつく温かさに癒される
  • 冬の霜の上を走るような食感
  • ジェル状の中身がほどけて外殻と混ざりあう。最後にはもっちり食感が残り、美しく失くなる

センスのかたまりのような感想が次から次へと繰り出される。とにかく表現力が高いこと高いこと…!
「風船を噛んだように薄い」「にごり温泉のようなとろっと舌にまとわりつく温かさ」など、切り口が新鮮で面白かった。
ちなみに編集部員は、「牡蠣醤油・きざみわさび・海苔を合わせて食べると磯辺餅みたいでおいしい」と書いて提出した(米粉を餅で例えるのはナンセンスだとは思いつつ、気の利いた表現が思い浮かばない……一流の食感ソムリエになるために、まだまだ修行あるのみ…!)。

参加者からの質問にイベント主催メンバーが回答

イベントの終盤には、参加者からの質問にイベント主催メンバーが回答する時間が設けられた。ここでは、質問の一部を抜粋して紹介したいと思う。

3Dフードプリンターを使ったビジネスモデルにはどんなものがある?

食品製造メーカーの視点で考えたときには、「テストマーケティングとしての少量生産」や「短期間での商品開発・商品改善」などのビジネスモデルがある。

例えば、製品を少量〜中量生産したい場合、工場を構えて生産するとなると設備投資に多大な費用がかかる。特に、海外で食品を生産する場合は、一度工場をつくってしまうと「事業が当たらなかったらすぐに撤退」ということができない。3Dフードプリンターを導入すれば、工場を構えずに実験的に商品を生産できる。事業がうまくいかなかったときの撤退も容易だ。

また、3Dフードプリンターを導入することで、日単位や週単位での短期間の商品開発・商品改善ができる。
3Dフードプリンターを使えば、製品を成形するための「型」の用意が不要になる。製品ごとに機材を切り替える必要がなくなるため、「お客さまの声を取り入れて1日単位で製品を改良する」「1週間ごとに新しい製品をつくる」といったことが可能だ。

フットワークの軽い商品開発や商品改善ができることから、食品メーカーの開発担当者を中心に興味を持ってもらっている。

「コンピュテーショナル食感デザインプロジェクト」の今後の展望は?

最終的には、快適に感じる食感や危険を感じる食感など、食感を通してその人自身の解像度を高められる仕組みをつくれたら面白いと考えている。そのような仕組みがつくれたら、将来的に「デジタルフードデザイナー」のような新しい職業が生まれるかもしれない。デジタル技術の進歩によってレストランの調理場にPCが置かれるようになり、「このレストランにはデジタルフードデザイナーがいないんだね」という会話が当たり前のように繰り広げられるようになったら面白い。

誰もが新しい食感を提供するクリエイターになれる間口が広がっている分野なので、職能として萌芽のある領域だと思う。

おわりに ― 思考のストッパーを外せば新しい価値の創造につながる

3D構造体食感ビュッフェに参加した感想は、「楽しかった!」の一言に尽きる。ほかの参加者の方と「蒸したら溶けちゃいましたね(笑)」「こっちのホットプレートのほうがカリカリに仕上がりますね」などと話しながら、童心に帰ってイベントを楽しんだ。

聞くところによると、Melt.メンバーの浅井氏と斎藤氏はもともと友人同士で、「一緒に何か面白いことしよう!」という好奇心からオープンラボが立ち上がったとのこと。気心の知れた仲間と始めた活動だからこそ、「こんなことをやったら楽しそう」「それならこんなイベントをやってみる?」というアイデアをカジュアルに形にできているのではないかと感じた。

編集部員は、日ごろから「こんな提案をしても成果につながらないだろう」というストッパーがかかってしまうことが多い。しかし、そのアイデアがどのような結果をもたらすかは、実際にやってみなければわからない。実現性が低いとはじめから切り捨てるのではなく、「どうしたらこのアイデアを実現できるか」という視点を持つことの大切さに気づかされた。

「コンピュテーショナル食感デザインプロジェクト」のメンバーは、ゼロからアイデアを生み出す創造力と、アイデアを形にするための知識力をバランスよく持ち合わせている。面白そうな活動をしている人を見つけたら、積極的に声をかけて仲間に引き込む行動力もある。彼らの活動が食品業界に明るい変化をもたらすことを、心から楽しみにしている。

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