3Dプリンターで使える樹脂材料は?ABS樹脂やPLA樹脂など種類と特徴を解説
業務用3Dプリンターで使用できる材料は樹脂や金属など様々なものがあります。それぞれの材料にはメリット、デメリットがあり、造形物に必要な性能や用途、3Dプリンターの造形方式などに合わせて選択が必要です。業務用3Dプリンターで使用できる樹脂素材は、ホビー用でも使用できるものから産業用の高性能なものまで多種多様です。
ここでは3Dプリンターで材料として用いられる樹脂の種類や特徴について解説します。
3Dプリンターの材料としての樹脂の種類・特徴
ABS樹脂
ABSは、A (アクリロニトリル)、B (ブタジエン)、S (スチレン) の3種類の成分を組み合わせた樹脂です。耐衝撃性、耐摩耗性、剛性、耐熱性など、優れた機械的特性を持っています。研磨や切削、接着、塗装、メッキなどの加工が容易に行えて汎用性も高く、自動車部品、電化製品の外装などさまざまな場所で使用されています。
3Dプリンターでは、材料押出方式(MEX/Material Extrusion)で主に用いられ、造形ヘッド内ヒータで糸状(フィラメント)にしたABSを200度以上の高温で溶かして積層します。優れた機械的特性を持ち、後加工も容易なので、試作品や実製品の他、治具等の製作まで、様々な用途の製品の造形に使用可能です。
短所としては、熱収縮性が高く、温度管理やフィラメント保管時の湿度管理が悪いと接着性の低下などにより、反りやヒビが発生しやすくなります。また、太陽光などに対して比較的弱く、長期間の屋外での使用など、耐候性が必要な場所での使用には向きません。
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ABSライク
ABSライクは、熱可塑性樹脂であるABSに近い物性を持たせたUV硬化レジンです。紫外線で硬化するので液槽光重合(VPP/Vat Photopolymerization)や材料噴射方式(MJT/Material Jetting)などの3Dプリンターで用いられ、VPP方式のひとつFDM(Fused Deposition Modeling/熱溶解積層方式)でのABS造形物よりも、滑らかで微細なものが造形できます。ABSに近い機械的特性をもっているので、ABSを素材に使った製品のシミュレーションにも多く用いられます。強度的にはABSより劣るため、強い力がかかるような製品や、長期間使用する耐久性が必要な製品の造形には向きません。
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ASA
ASAは、ABSのブタジエンをアクリレートに置き換えた熱可塑性樹脂であり、ABSと同じような衝撃性や耐摩耗性を備えています。ABSと同様にFDMで主に用いられます。ABSとの違いは、耐候性に優れている点です。長期間直射日光があたる屋外で使用される製品の造形にも使用できます。
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PC-ABS
PC-ABSは、ポリカーボネート(PC)とABSの優れた特性を併せ持った樹脂です。耐衝撃性や耐熱性が非常に高く、エンジニアリングプラスチックとして、自動車部品や電化製品など、強度や耐久性の求められる製品に広く用いられています。ABSと同様にFDMで主に用いられ、研磨や切削、接着、塗装、めっきなどの後加工も容易に行えます。
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PLA| ポリ乳酸
PLAは、トウモロコシやジャガイモ、サトウキビなどを原料とする植物由来のプラスチックです。微生物などにより二酸化炭素と水にまで分解されるので、生分解性プラスチックと言われます。農業用シートや食品トレイや、包装用フィルム、レジ袋など、環境対応が必要な用途で多く使用されています。
3Dプリンターでは、FDMで用いられます。ABSよりも低温で造形が行え、熱収縮が小さく、比較的大きな物でも安定した造形が可能です。価格も安く、初心者でも扱いやすいため、低価格のホビー用3Dプリンターで多く採用されています。強度や耐久性は低く、力のかかる部品や長期使用するような物の造形には向きません。耐熱性も低く、50度から60度程度の温度でも歪むことがあります。
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PEI|ポリエーテルイミド
PEIは、非晶性のスーパーエンプラの一種です。1980年代初頭にアメリカの総合電機メーカー・ゼネラルエレクトリック社(GE)が開発し、Ultem™の製品名で供給されました。2007年にサウジ基礎産業公社(SABIC)がGEより全プラスチックス事業を買収したことにより、現在はSABICが生産しています。
3DプリンターではFDMの素材として用いられます。優れた耐熱性、機械的特性、難燃性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性になどを持ち、航空部品や自動車部品、電子部品、加熱調理用品などに用いられています。耐摩耗性、耐衝撃性はやや低いです。
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ゴムライク
ゴムライクは、熱可塑性ポリウレタン(TPU)などの、ゴム製品に近い物性を持った熱可塑性のゴム(エラストマー)です。FDMの素材として用いられます。ゴム同様の高い柔軟性と弾性を持ち、耐摩耗性、耐衝撃性、耐薬品性などにも優れます。金型がなくても、1個からゴム製品に近いものを造形できるので、靭性や柔軟性が求められる部品の試作や製造に用いられることが多いです。柔軟な素材なので、積層時の歪みやノズル詰まりが起きやすくなります。
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PA|ポリアミド
PA(ポリアミド)は、アミド結合によって多数のモノマーが結合してできたポリマーであり、一般的にはナイロンの名前で知られている樹脂です。1935年にアメリカの化学メーカー・デュポン社が世界初の合成繊維として開発したナイロン6,6の他、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12など各種のナイロンがあります。高い靱性や引っ張り強度を持ち、耐熱性や耐衝撃性、耐摩耗性、耐油性、耐薬品性などにも優れた樹脂であり、エンジンカバーやマニホールドなどの各種自動車部品の他、航空部品、電気機器部品、衣類、釣り糸など各種の工業製品に使用されている、非常に身近な樹脂素材です。PAのなかでも脂肪族骨格を含むPAをナイロンといい、芳香族骨格だけで構成されるPAをアラミドといいます。アラミドは、鋼鉄の5倍もの引っ張り強度を持ち、融点が320°Cと高い耐熱性を持ちます。
3Dプリンターでは、FDMやSLS(Selective Laser Sintering/粉末焼結積層造形)などの素材として用いられます。FDMでは、他のナイロンよりも融点の低いナイロン12(融点176°C、ナイロン6,6は融点265°C)が用いられます。ナイロン11、ナイロン12は、他のナイロンよりも吸水性が低く、耐寒衝撃性に優れています。機械的特性になどが非常に高いナイロンですが、熱収縮性が高く、高い精度で造形することが難しい素材です。
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PC| ポリカーボネート
PCは、ハンマーで叩いても割れないほどの非常に高い耐衝撃性を持つ、エンジニアリングプラスチックに分類される熱可塑性樹脂です。耐候性や耐熱性にも優れ、自己消火性や高い透明性も持っています。この特性を活かして、自動車のライトのカバーや透明な屋根、樹脂製のネジ、警官の使う盾など、幅広い分野で使用されています。
3DプリンターではFDMで用いられます。強度が高く、熱や紫外線にも強いですが、傷がつきやすく、耐薬品性は高くありません。
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PP|ポリプロピレン
PPは、一般的に広く使用されている熱可塑性樹脂です。高靭性で柔軟性があり、耐衝撃性、耐摩耗性、耐久性などに優れ、キッチンで使われるケースや家電製品、CDケース、ヒンジ、自動車パーツ、繊維素材など、様々な工業製品に使用されています。
3Dプリンターでは、SLSやMJTに用いられます。高靭性で汎用性が高い素材ですが、耐候性が低く、長時間日光に当たるような場所で使用する部品の造形には向かず、塗装や接着にも向きません。
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PPライク
PPライクは、熱可塑性樹脂であるPPの物性を再現したUV硬化レジンです。高靭性で柔軟性があり、耐衝撃性、耐摩耗性、耐久性などに優れ、キッチンで使われるケースや家電製品、CDケース、ヒンジ、自動車パーツ、繊維素材など、さまざまな工業製品に使用されています。
PPはFDMによる材料としては際限が難しく、ABSライクと同様に紫外線で硬化するので、光造形方式のひとつSLAやMJTなどの3Dプリンターで用いられます。PPに近い見た目と質感、機能を持った、滑らかで繊細なものの造形が可能です。PPを素材に使った製品のシミュレーションにも多く用いられます。UV硬化レジンなので、太陽光が長時間当たるような屋外で使用する部品の造形には向きません。
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UV硬化アクリル樹脂
UV硬化アクリル樹脂は、透明性に優れた熱可塑性樹脂です。耐久性や耐候性、剛性、加工性などにも優れています。SLAにより、滑らかで高精細な造形が可能です。3Dプリンターによる造形では、透明性がやや下がります。
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ワックス
ロストワックス鋳造に用いる型を造形するために用いられるUV硬化レジンです。SLAやMJTなどに用いられます。高精細で複雑な形状のロストワックス型を一度に多く作ることができます。
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まとめ
3Dプリンターで使用できる樹脂素材は、一般的に利用されるものの他、各3Dプリンターメーカーから独自のものも多数出ています。造形物に必要な性能や用途、造形方式に合わせ、最適なものを選択して使用してください。