3Dプリンター住宅、日本の課題と最新事例を紹介
世界で3Dプリント住居の建築が相次ぐなか、日本の状況はどうなのか。日本が抱える課題に触れながら紹介していく。(画像は日本で開発がすすむ3Dプリント住宅「フジツボモデル」の完成予定図 出典:慶應義塾大学)
[2022年12月28日更新]
目次
日本で3Dプリンターを用いて建築をする上での最大の敵は「地震」
地震大国である日本では、建造物に厳しい耐震基準が設けられている。1981年に施工され、現在でも続く新耐震基準では「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも倒壊は免れる」ことが義務づけられている。これは戸建てでもマンションでも同様で、もちろん3Dプリンターで造形された住宅でも例外ではない。建築基準法に対応するためには、3Dプリンターでモルタルやコンクリートなどの材料を使いつつ、 鉄骨や鉄筋の指定された建築材料を合わせて使用する必要がある。もしくは、指定材料を使わない建造物として個別に国土交通大臣の認定で特例として認可される必要がある。
そんな中でも国内のベンチャ各社が建築基準法に準拠した3Dプリンター住宅や建造物の施工に成功しており、また大手ゼネコンも3Dプリンターの研究・開発を着実に進めている。
国内事例1│3Dプリンター住宅メーカー「セレンディクス」
2018年に設立され、兵庫県西宮市に本社を構える3Dプリンター住宅メーカー「セレンディクス株式会社」は、日本初となる3Dプリンター住宅を、愛知県小牧市で建築した。施工開始から防水処理や開口部等の住宅処理までをわずか23時間12分で完了させている。
セレンディクス社の住居は球体状で、名称は「Sphere」。これはプロジェクト名にもなっている。Sphereはグランピング・別荘・災害復興住宅として、2022年に10平方メートル・330万円で販売を開始。2022年11月の時点で、2022年度販売予定分の「Sphere」6棟が完売している。
日本初の3Dプリンター住宅Sphereについては、セレンディクス社の展望も含めて取り上げているので、参照してほしい。
セレンディクス社は、将来的に100平米300万円台で販売できる一般住宅の建築を目指している。現在は、慶応義塾大学の研究グループと共同で3Dプリント住宅「フジツボモデル」の完成に取り組んでいるところだ。「フジツボモデル」は、2023年春頃までに一般販売の開始を目指している。
国内事例2│建設用3Dプリンターで技術提供「Polyuse」
セレンディクス社と共に日本の3Dプリンター業界を牽引する存在が、2019年に設立された「株式会社Polyuse」だ。Polyuse社は建設用3Dプリンターを開発・サービス化する日本のベンチャー企業で、建設用3Dプリンターを中心とした、建設業界特化型の技術開発及びサービス提供を行っている。大きな特徴は、建設業界に特化している点だ。
Polyuse社は、国土交通省主導のプロジェクト「PRISM」において、生産性向上の一手として建設用3Dプリンターによる排水土木構造物製造を、施工会社の加藤組とともに、中国地方で初めて共同実証を行った。
実証実験では、建設現場における生産性向上を目的に加藤組の施工管理のもと、実際の施工現場にて建設用3Dプリンターを活用し、排水土木構造物の現場製造が行われた。建設用3Dプリンターの導入は、造形の自由度や廃棄物量の抑制に加え、熟練技術者の不足問題も解決することが期待されている。
2022年9月には、国土交通省近畿地方整備局が発注する公共工事を地元の建設業者である吉村建設工業と、建設用3Dプリンタを開発するPolyuseが請け負い、日本の国道工事で初めて建設用3Dプリンターの現場施工が行われた
2022年11月には、有限会社光巨プロジェクトと共同で、建設用3Dプリンターによる建築サービス「DDD.homes」の提供を開始。 「DDD.homes」 のプロジェクト第一弾として、世界初となる国産3Dプリンター製のサウナを発表した。同サウナは、横浜市で行われたウェルビーイングを体感するイベント「ハマウェル」にて初披露された。
国内事例3│コンクリートメーカー「會澤高圧コンクリート」
北海道苫小牧市のコンクリートメーカー・會澤高圧コンクリート株式会社は、アームロボット式のコンクリート3Dプリンターで3棟の宿泊施設を建設した。同宿泊施設は、道内にある「太陽の森ディマシオ美術館」に併設されている。
宿泊棟本体は建設現場にアームロボットを持ち込み、基礎の上に直接印刷を行うオンサイトプリンティングを採用。建物の高さは2.6mで、床面積は9.8㎡。各宿泊棟は5~6枚のパーツで構成されており、準備や調整をふくめて1日1~2枚ずつ印刷して完成させた。
また、2022年9月からは、 ワイン醸造用コンクリートタンクの効果を検証するプロジェクト「よっつめのテロワール」をスタート。
コンクリートタンクには「酸素を透過して緩やかな発酵を促す」「熱伝導性が低く外気の影響を受けにくい」などの特徴がある。このような強みをワイン醸造で活かすために、ワイン醸造用タンクをステンレスからコンクリートに置き換える活動を行っている。
国内事例4│建設事業会社「大林組」
株式会社大林組は、3Dプリンターとロボットアームを組み合わせてコンクリート構造物をつくる自動化施工システムを開発した。この自動化施工システムは、セメント系材料を素材にできる3Dプリンターによる外殻製造技術と、ロボットアームによるコンクリートの吹き付けまたは流し込み技術の2つを組み合わせて開発された。
このシステムをもとに、大林組は日本ヒューム株式会社と協力して「プレキャストコンクリートブロック」の製造にも成功している。プレキャストコンクリートブロック とは、 建物の基礎となる円筒形の鉄筋コンクリート構造のブロックのことを指す。従来手法で製造したプレキャストコンクリートと同等の強度を有していることが確認されており、製造にかかる時間も費用も大きく削減できることから、将来的な実工事への適用が期待される。
また、3Dプリンターを用いた建築物の施工にも取り組んでいる。
画像の「3Dプリンター実証棟(仮称)」は、3Dプリンターを用いた建築物として国内で初めて建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得し、2022年6月に施工を開始している。
国内事例5│建設事業会社「清水建設」
清水建設は、自社施設内でオンサイト3Dプリンティングの実証施工を行った。埋設型枠のみ3Dプリンターで造形し、内部にコンクリートを打ち込む施工方法は、現行の日本の法規にも抵触せずすぐにでも実践できる工法だ。
今回の大規模構造物には、従来的なコンクリート打ち込み工法と、3Dプリンターによるオンサイト印刷を組み合わせた施工法が用いられた。業界全体で課題になっている建設現場の人手不足を解消する省力化・省人化の具体策として注目を集めている。
そのほか、建設用3Dプリンター「Shimz Robo-Printer」の開発を行っている。Shimz Robo-Printerは、レール上を水平移動するノズルでプリント材を吐出するガントリー型3Dプリンターで、大型の構造物を現場で直接印刷することを目的として設計された。名称からわかる通り自動化が目的でロボット開発のアプローチを推し進めた結果として3Dプリンターにたどり着いたのだろう。
海外の3Dプリント建築の今
日本での3Dプリンター活用は、諸外国に比べて進んでいるとは言えない状況にある。アフリカ南部の国、アンゴラ共和国では、140平方メートルもの広さの3Dプリント住宅が建設された。建設にかかった時間はわずか30時間だという。
人口増加が続く国では、深刻な住宅不足が問題となっている。手頃な価格で建設できる3Dプリント住宅は、通常の住宅よりも早く、より安価に建設することが可能となるため、住宅不足問題を徐々に解消できるのではないかと期待を集めているところだ。
既に人口減少が始まっている日本と、住宅不足が問題となっている国とでは住宅に対する捉え方は異なる。
セレンディクス社が提唱するように、安価で短期間に建設できる3Dプリント住宅は、住宅ローン破綻や、脱炭素化、ウッドショックといった日本が抱える課題を根本から解決することになるかもしれない。日本での最新3Dプリンター事情を、今後もShareLabで取り上げていきたい。
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