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山梨県北杜市の清春芸術村に3Dプリンター製滑り台「ホワイト・ループ」が完成

3Dプリンタ製の滑り台「ホワイト・ループ」。

山梨県北杜市に位置する芸術文化施設、清春芸術村(運営:公益財団法人清春芸術村)が推進する「こどものための建築プロジェクト」の第2弾として、新たに子供向けの建築が施設内に登場した。この建築は、「ホワイト・ループ(White Loop)」と名付けられた3Dプリンターによる滑り台である。設計を担当したのは、建築家でありVUILD(ヴィルド)を主宰する秋吉 浩気 氏である。清春芸術村はこれまで「アート」や「建築」の分野で力を注いできたが、今回のプロジェクトにより「遊び」の要素が新たに加わった。これから本格的に到来するAI時代を見据え、芸術文化と遊びを通じて、子供たちの感性を豊かに育むことを目指している。(上部画像は建築家で、建築テック系スタートアップ企業<VUILD(ヴィルド)>を主宰する秋吉浩気氏が設計した3Dプリンタ製の滑り台「ホワイト・ループ」。柱などがなく、滑り台それ自体が構造体として自立している。 出典:清春芸術村)

清春芸術村の概要

1980年、清春小学校の跡地を再活用しスタートした芸術文化施設。建築家・谷口 吉生 氏の設計による<清春白樺美術館>(1983年開館)や<ルオー礼拝堂>(1986年開堂)をはじめ、藤森 照信 氏の茶室<徹>(2006年完成)、安藤 忠雄 氏の<光の美術館>(2011年開館)、新素材研究所/杉本 博司 氏+榊田 倫之 氏のゲストハウス<和心>(2018年竣工)など、敷地内には名建築が立ち並ぶ。

詳しくは下記のリンクよりご確認願いたい。

https://www.kiyoharu-art.com/

https://www.instagram.com/kiyoharu.art.colony

プロジェクトディレクター 白井 良邦 氏のコメント

これから本格的に到来するAI時代を生きていく子供たちにとって、感性を育むことは、今以上に大切で重要になってきています。では感性はどのようにして磨かれていくものなのでしょうか。その答えのひとつは“遊び”の中にあると言えます。

今回のプロジェクトは、南アルプスのほど近く、自然豊かな山梨県北杜市にある芸術文化施設からの依頼で始まりました。最初の話し合いのなかで、小さな子供たちにも「本物の“建築”に触れて欲しい」「“建築”という世界があることを知って欲しい」という考えに至り、世界的に著名な建築家、谷口吉生氏や安藤忠雄氏の設計した美術館が建つ敷地内に、新たに子供のための遊びの場を建築家が提供するという「こどものための建築」プロジェクトがスタートしました。

その第2弾の設計をお願いしたのは、若手建築家の中でも他とは一線を画す活動をする秋吉浩気さんです。秋吉さんは大学院でデジタルファブリケーションを学び、卒業後は建築テック系のスタートアップ企業<VUILD>を創業、「建築の民主化」を目指す活動をしています。今回は巨大な3Dプリンターを使い、今まで世界でも前例のない「メビウスの輪」のようなそれ自体が自立する滑り台を生み出しました。ぜひ美術館へ実際に脚を運んでもらい、子供たちに体感して欲しいと願っています。

「ホワイト・ループ」滑り台の特徴

「ホワイト・ループ」滑り台は、その名前の通り、白いループ状のデザインが特徴であり、シンプルながらも未来的な造形が魅力である。3Dプリンター技術を駆使し、複雑な曲線と滑らかな表面が一体となった独特の形状を実現している。耐久性の高い樹脂素材を使用し、安全性にも配慮されているため、屋外での使用にも適している。また、自然環境との調和を考慮した設計が施されており、周囲の景観に溶け込みつつも、強い存在感を放つアート作品としても評価されている。

清春芸術村に設置された、こどものための建築「ホワイト・ループ」
清春芸術村に設置された、こどものための建築「ホワイト・ループ」(出典:清春芸術村)

建築家・メタアーキテクト VUILD主宰 秋吉 浩気 氏のコメント

「こどものための建築」と聞いて、真っ先にイサム・ノグチの彫刻を思い浮かべた。先日、札幌の大通公園にある『ブラック・スライド・マントラ』を見に行った際、子供たちが螺旋状に旋回しながら、登っては降りてを繰り返し遊んでいる姿が印象に残った。この情景を思い出しながら、「白樺の木々の間をすり抜け、大きく面的に旋回しながら、子供達が登ったり降りたりして、互いに追いかけ合っている姿」を頭の中に思い描いたのが最初の着想であった。

また同時期に読んでいた絵本『バーバパパ』からも大きな影響を受けた。愛らしい膨よかな身体が、変幻自在に変化し、時には動物に、時にはジェットコースターへと変化し、親しみやすい色と形で子供達を柔らかく包み込む。興味深いのは、彼らの家づくりの方法だ。自らの体に樹脂を巻きつけ、体を膨らました後に小さくなって抜けることで、有機的な空間を創り出していく。この発想は、樹脂を溶かしながら積層し造形していく3Dプリンターによる家づくりのようであり、その先見性に驚かされた。

この2つのインスピレーションから、樹脂3Dプリンターを用いて滑り台をつくるという方針が定まった。いざ様々な滑り台を観察してみると、滑りたくて登ったけれど逆走してくる子に戸惑ったり、滑りたくて並んだけれど横入りされて泣いたりと、滑り台を巡る希望と失望のせめぎ合いに直面した。この軋轢を解消するには、滑ると登るの間をシームレスにつなぎ、滑り台と階段の形を同一化すると良いのではと考え、現在の「メビウスの輪」のような形に辿り着いた。

白い洞窟のような空間に「潜り」、滑り台型の階段を慎重に「登り」、風景を見渡しながら「座り」、晴れやかな気分で「滑り」、また期待を膨らましながら「走る」。この一連の経験(シークエンス)こそが原初的な建築体験であり、この小さな建築で遊ぶことを通じて建築への興味が芽生えることを願っている。

今後の展望と展開

今回、清春芸術村に設置された「ホワイト・ループ」は3Dプリンター技術を駆使したユニークな造形を持つため、アートや建築に関心を持つ人々だけでなく、先進技術に興味を持つ観光客も惹きつける。清春芸術村への訪問者数も増加し、地域全体の経済活性化につながることが予想される。

また、このプロジェクトが他の文化施設や地方自治体へのインスピレーションとなり、3Dプリンター技術を活用した新たなアートプロジェクトや建築物の導入が進む可能性がある。特に、環境に配慮しながら自由なデザイン表現を可能にする3Dプリンタ技術の採用が拡大することで、持続可能な建築の普及が加速する。

さらに、教育分野でも「ホワイト・ループ」の存在は大きな影響を及ぼすと考えられる。清春芸術村は3Dプリンター技術を活用したワークショップや体験イベントを開催することで、子供たちの創造力や問題解決能力を育成するプログラムを展開できる。これにより、地域の教育機関との連携が強化され、次世代のデジタル技術やものづくりに対する興味や理解を深める機会が増える。

最後に、「ホワイト・ループ」が成功事例となることで、他の公共スペースや都市部のプロジェクトにおいても、3Dプリンター技術を活用した遊具や公共アートの導入が進む可能性や一般社会に浸透し、生活環境の改善や新たな体験の提供に貢献する未来が見えてくるだろう。

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国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。

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