リサイクル素材の活用と金属プリントの多様化 ― 次世代3Dプリンタ展2023レポート
2023年6月21日から23日にかけての3日間、東京ビッグサイトにて「第6回次世代3Dプリンタ展(通称 AM Japan)」が開催された。3Dプリンター機材や材料、受託造形サービスなど、アディティブマニュファクチャリングや 3Dプリント技術に関する企業が一堂に会し、最新のトピックを共有し合う場だ。
国内外の3Dプリンターの最新動向を探るため、ShareLab編集部もイベント会場を取材。大型3Dプリンターやリサイクル素材の活用、多様化する金属3Dプリンターなど、気になったトピックを取り上げて紹介しよう。
目次
素材をアップサイクルする3Dプリントシステム|リコージャパン×エス.ラボ
入口からすぐの場所にブースを構えていたのはリコージャパン。各種3Dプリンターやソリューションなども手掛ける企業だが、中でも目を引いたのはブースの正面に置かれた「アップサイクルシステム」だろう。プラスチックの粉砕機、押出成型機、クーリングシステムとペレタイザー、そしてペレット式3Dプリンターが横一列に並んだ光景は、3Dプリンターを活用したプラスチックの資源循環を象徴するものだ。
まずは使用済み容器などをプラスチック粉砕機にかけて細かくし、既存の樹脂ペレットやフィラーなどと併せて押出成型機にかける。素材が混ざり紐状に押し出されたままコンベア上で冷却したら、ペレタイザーで均一なサイズにカット。そうして完成したリサイクル素材を用いて、ペレット式の3Dプリンターで造形するという作業フローになっている。個々の技術要素を繋ぎ合わせ、小型システムとしての運用を可能にしたことで、多くの機械や素材メーカーがアップサイクルに取り掛かるための導入口として機能する。なお、押出成型機やペレタイザー、ペレット式3Dプリンターはエス.ラボが開発した製品群だ。
リコージャパンのブース内には、これまで焼却処分されていた木製家具の端材を使った木粉ペレット、廃棄される遊戯機から生まれたリサイクルペレットといった素材や、それらを用いたプロダクトが数多く展示されていた。今やどんな業界でも資源の再利用は当たり前のこととして求められるが、単なるリサイクルで大きな価値を生み出すことは容易でない。少量かつ短期間からの試行錯誤が可能で、既存のペレットとも組み合わせやすい3Dプリントシステムには、多くのメーカーから問い合わせが絶えないそうだ。
東京2020オリンピックの表彰台が「使い捨てプラスチックを再生利用した表彰台プロジェクト~みんなの表彰台プロジェクト~」として、使用済みプラスチックを用いた3Dプリントによって作られていたことは記憶に新しい。これを一つの契機として、大型のイベントのみならず、日常的な取り組みとして廃棄素材のアップサイクルに3Dプリントが活用されるようになっていると感じられた。
製造業のニーズに応える大型ペレット式3Dプリンター|3D Systems×スワニー
3D Systemsのブースでは、有限会社スワニーとのタッグによる大型3Dプリント造形物に注目が集まっていた。スワニーは3Dプリント樹脂モールド「デジタルモールド」などを手掛ける企業。1970年の設立以来、デジタルツールを活用した製品設計に取り組んできたが、国内では初の事例として3D Systemsの「EXT 1070 Titan Pellet プリンター」を導入し、長野県伊那市にデモセンターを開設することを発表した。
「EXT 1070 Titan Pellet プリンター」はペレット式の大型3Dプリンターで、幅広い原料を使った高速な造形を得意とし、さらに複数あるツールヘッドは付け替えも可能。スワニーが導入するモデルでは、一つのヘッドにスピンドルを装着することによって、積層造形後にそのまま切削処理をかけることができる。型としての利用にも耐えるクオリティの造形物が作れることで、顧客に提供できる価値が大きく向上していく。
スワニーではこれまで事業に取り組む中で、金型製造にかかる時間とコストによって、大型樹脂部品の製造ニーズに応えきれなかったことが課題となっていたという。今回の大型3Dプリンターの導入によって、そうしたニーズを受け止めて新たな価値を生み出すのみならず、日本に拠点を開くことで、国内やアジアに向けたアプリケーションや量産支援環境を構築しようとしている。また、スワニーでは不要なプラスチックを回収して新たなものへと循環させていく取り組みも行っており、ここでもペレット式の3Dプリンターは活躍するだろう。
内部構造の設計と紐づく光造形の最終製品|LuxCreo
リサイクル素材の活用や大型化が目立つ材料押出方式の3Dプリンターに対し、光造形方式ではより微細な内部構造や特殊なアプリケーションへの応用が際立っている。日本3Dプリンターのブースで展示されていたLuxCreoの造形サンプルは、サンダルや自転車のサドルなど、柔軟性が効果的に取り入れられているものばかり。「LEAP」と呼ばれる技術によって、造形の直前に2種類の液体を混合することが可能となり、従来の光造形方式で起きていた強度不足などを改善し、より優れた素材特性を持つようになったという。
造形サンプルの立体を埋める格子(ラティス)のパターンは様々で、いずれもプリント用ソフトウェアから手軽に適用できる。こうした複雑なパターンを手動で設計するとデータ量が大きく、ハンドリングには難しさも伴っていた。ソフトウェア側の操作も含めて容易な製造が可能になることで、より多彩なアプリケーションが登場することが予感された。
金属3Dプリンターでも進む低コスト化|SK additive innovation
次世代3Dプリンタ展の会場では、各地で金属3Dプリントのための装置や造形サンプルが展示されていた。なかでも、SK additive innovationのブースは業務用金属3Dプリンターがより現実的な選択肢になってきたことを感じられるものだった。ブースの中央に位置する「HBD-200」は粉末床溶融結合方式の金属3Dプリンター。マルエージング鋼やステンレススチール、チタン合金やアルミニウムなど幅広い素材を選択できるが、それらはメーカー提供品に限らないオープン方式。サードパーティとも協業して、造形用のパラメーターを調整する体制が整っているという。
また、最大の特徴は低コストでの導入ができること。外装などのアセンブリを中国で行うことでコストを抑えているが、造形の要となるレーザー部分は既往の金属3Dプリンターと遜色なく、十分なクオリティのプロダクトが製作できるという。金属3Dプリンターを導入して運用に慣れた企業が、2台目以降の選択肢として「HBD」シリーズを購入するケースが多いそうだ。材料押出方式や光造形方式の3Dプリンターの変遷を見ても、本体価格が高く材料も囲い込まれたものから始まり、技術の浸透に合わせて低コスト化と素材のオープン化が進んでいった歴史があり、その流れがついに金属3Dプリンターにもやってきたと見ることができるだろう。
用途別に多様化する金属3Dプリンター|Desktop Metal
丸紅情報システムズのブースでは、Desktop Metalの金属3Dプリンターや造形物が多数展示されていた。比較的小型なプリンターは「Studioシステム2」のための装置。金属粉末と熱可塑性のバインダー(結合樹脂剤)を混合した材料を加熱して吐出するBound Metal Deposition方式を採用しており、造形後にはファーネスでの脱脂焼結が必要となる。素材がフィラメントでも粉末でもない特殊なスティック状の固形材料であることから、取り扱いが簡単で扱いやすく、オフィスのような環境でも導入しやすいことが特徴で、教育現場などでの採用も進んでいるという。
大きなサイズで存在感のある3Dプリンターは、「Shopシステム」のための装置。こちらはバインダージェット方式を採用しており、粉末を除去するパウダーステーションやファーネス、また粉末素材を管理するドライオーブンやブレンダーと組み合わせて利用する。粉末素材に結合剤を吹き付ける方式なので、プリンター本体が高温になることはない。素材の管理のしやすさや専用ソフトウェアの焼結収縮予測補正機能なども合わせ、製造現場への導入が丁寧に想定された仕組みと言えるだろう。2023年4月には丸紅情報システムズと名古屋特殊鋼株式会社が協業を開始し、「Desktop Metal ShopシステムPro」を国内で初めて導入したことも報じられている。
金属3Dプリンタと一言で括っても、そのニーズはさまざまだ。コストを抑えたり、造形の安定性や取り回しやすさを重視したり。「Studioシステム」と「Shopシステム」の2種を展開するDesktop Metalのアプローチは、まさにそんな多様化を象徴するものだと言えるだろう。
中国拠点の大型3Dプリントソリューション|LOBOTICS
次世代3Dプリンタ展には海外を拠点とする企業も多数出展していた。中国に拠点を置くLOBOTICS社は、自社開発のフィラメント式大型3Dプリンター「AMPS1200」と造形例を展示。自社製の工業グレード素材や、ロボットアームを活用した後処理など含めたトータルソリューションを提供しており、日本では長瀬産業などと連携したサービスを展開しているようだ。
まとめ
展示のタイトルにある「次世代」とは何を表すのだろう。明確に定義はされていないが、それはマシンの単なるアップデートだけを示す言葉ではないはずだ。実際、マシンだけを展示しているブースはほぼなく、ほとんどが素材や製造事例、ソリューションも交えた提案として価値を示していたことが印象的だった。リサイクルも含めた資材の活用や、産業の持続性が当たり前に求められる現在。3Dプリントを中心に生まれる、新しい価値の萌芽が至る所で見られた展示会だった。
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1992年生まれ。大学で3Dプリンタに出会いものづくりの楽しさを知り、大学院・研究員を経て独立。テック/ものづくり系の取材を中心にライターとして活動中。