日本初の3Dプリンター住宅メーカーであるセレンディクス株式会社(兵庫県西宮市)は、JA三井リース株式会社(東京都中央区)と、3Dプリンター建築の普及促進および量産販売の強化に向けた業務提携契約を締結した。JA三井リースのファイナンス機能を活用して、全国の協力会社による建設用3Dプリンターや施工機材の導入を支援するほか、建物リースなど新たなサービスの共同展開も進める。
目次
3Dプリンター建築の量産に向け施工ネットワークを拡大
建設業界では、人手不足や資材価格の高騰、工期の長期化が課題となる一方、高度経済成長期に整備された建築物や社会インフラの更新・建て替え需要が拡大している。また、地震や台風、豪雨などの自然災害が相次ぐなか、災害に強い建築物への需要も高まっている。
セレンディクスは、3Dプリンター工法を住宅に限定せず、省人化や工期短縮、品質の安定化、設計自由度の向上、環境負荷低減などを実現する建設ロボティクス技術として展開している。
同社は2026年6月、研究開発を中心とした段階から量産フェーズへ移行すると発表した。2026年7月末までの前年度には住宅およびインフラ関連施設で38件を受注しており、今後1~2年で累計100棟超、5年後には年間1,000棟超の建築を目指している。
この量産体制を支えるのが、セレンディクスが採用する「水平分業型」の事業モデルである。
セレンディクスが建設用3Dプリンターをすべて自社保有するのではなく、全国各地の協力会社がプリンターや施工機材を保有し、そのネットワークを通じて施工する仕組みだ。
建築棟数を増やすためには、各地域で施工を担う協力会社による設備導入を促進し、施工ネットワークを全国規模へ広げる必要がある。一方で、建設用3Dプリンターや関連機材の導入には設備投資が必要となることから、協力会社側の資金負担をいかに軽減するかが量産化に向けたポイントとなる。
JA三井リースが建設用3Dプリンターの設備導入を支援
今回の業務提携では、JA三井リースが持つファイナンス機能を活用し、セレンディクスの協力会社による建設用3Dプリンターや施工機材などの導入を支援する。
リースをはじめとするファイナンスサービスを組み合わせることで、協力会社が設備を導入する際の投資負担を軽減する。これにより施工を担う企業を増やし、セレンディクスが進める全国規模の施工ネットワークと3Dプリンター建築の量産体制を強化する考えだ。
セレンディクスにとっては、自社ですべてのプリンターや施工設備を保有するのではなく、地域の協力会社が設備を保有する水平分業型モデルを維持しながら、施工能力を拡大できる仕組みとなる。

完成した建物そのものをリースするサービスも
両社は設備導入支援に加え、営業面でも連携する。
セレンディクスの3Dプリンター技術を活用した施設や店舗について、JA三井リースが持つ全国の顧客ネットワークを活用して営業活動を行い、販売促進に向けて相互に協力する。
さらに両社は、建物そのものを対象としたリースなど、新たなサービスの提供も共同で進める。
従来のようにユーザーが建物を購入して「所有する」だけでなく、リースによって「利用する」という選択肢を用意することで、3Dプリンター建築を導入する際の初期投資を抑える狙いがある。
建設用3Dプリンターなどの施工設備だけでなく、完成した建物にも金融サービスを組み合わせることで、3Dプリンター建築を導入しやすい環境を整備していく。
セレンディクスの代表取締役CEOである小間裕康氏は、今回の提携について、3Dプリンター建築を「つくる技術」から「普及する仕組み」へと進める一歩と位置付けている。
同社は量産フェーズへの移行を受け、住宅だけでなく、インフラや産業施設をはじめとする幅広い分野へ3Dプリンター建築を展開していく方針だ。
住宅から駅舎、インフラへ用途を拡大
セレンディクスは2018年に創業した3Dプリンター住宅メーカーである。
2022年3月には、日本初の3Dプリンター住宅「serendix10」を建築。2024年9月には、2人世帯向け住宅「serendix50」の販売第1号棟を、復興住宅モデルとして石川県珠洲市に建設した。
現在はウクライナで3Dプリンター建築による復興支援プロジェクトを進めており、NASAの火星移住プロジェクトに携わる建築家・曽野正之氏(Clouds AO)がデザインを監修している。
2025年には、資本業務提携するJR西日本グループと駅舎を建設するなど、住宅以外にも3Dプリンター建築の用途を広げている。
今回のJA三井リースとの提携では、こうした用途開拓に加えて、施工会社による設備導入とユーザー側の建物導入という双方に金融サービスを組み合わせる。研究開発から量産へ移行したセレンディクスが、年間1,000棟超という目標に向けて事業基盤をどのように構築していくのか注目される。
編集部コメント
建設用3Dプリンターの量産展開を考えるうえで、今回の提携で注目したいのは「設備を誰が保有し、その投資をどう支えるか」という点である。セレンディクスは全国の協力会社がプリンターや施工機材を保有する水平分業型モデルを採用しているため、施工エリアを広げるほど協力会社側の設備投資が必要になる。そこにJA三井リースのファイナンス機能を組み合わせることは、全国展開を進めるうえで重要な仕組みとなりそうだ。
もう一つ興味深いのが、完成した3Dプリンター建築そのものをリースする構想である。建設3Dプリンティングの普及には、造形速度や材料、コストといった技術面だけでなく、施工会社や利用者が導入しやすい事業・金融面の仕組みも必要になる。今回の提携は、セレンディクスが研究開発中心の段階から本格的な量産・販売へ移行していることを示す動きの一つといえる。
用語解説
| 水平分業型 |
|---|
| 製品やサービスの提供に必要な工程や設備を1社ですべて抱えるのではなく、複数の企業がそれぞれの役割や設備を担い、連携して事業を展開する方式。セレンディクスでは、全国の協力会社が建設用3Dプリンターや施工機材を保有し、そのネットワークを通じて建築を行うモデルを採用している。 |
| 建設用3Dプリンター |
|---|
| コンクリートやモルタルなどの建設材料をノズルから押し出し、デジタル設計データに基づいて積層することで、壁などの建築部材を造形する大型の3Dプリンター。型枠の削減や省人化、工期短縮、複雑な形状への対応などが期待されている。 |
| 建物リース |
|---|
| 建物を利用者が購入して所有するのではなく、リース会社などが取得した建物を契約期間に応じて利用する仕組み。初期投資を抑えながら施設や店舗などを導入できる可能性があり、今回の提携では3Dプリンター建築への適用が進められる。 |
| 建設ロボティクス |
|---|
| ロボットや自動化技術、デジタル技術などを建設工程に導入し、従来は人手で行われてきた作業の省力化や自動化を図る技術分野。建設用3Dプリンターのほか、施工ロボットや自動搬送機器なども含まれる。 |
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